| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-07  (Oral presentation)

農地防風林帯が鳥類群集にもたらす利益とコスト【B】
Costs and benefits of shelterbelts for avian assemblages in agricultural landscapes【B】

*久野真純(広島大学・先進理工), 出口翔大(福井市自然史博物館), 本村健(中野市教育委員会)
*Masumi HISANO(Hiroshima University), Shota DEGUCHI(Fukui City Museum NatHistory), Ken MOTOMURA(Nakano City Hall)

【目的】農地における生け垣や並木は鳥類にとって重要な生息地となる一方、開放的な環境を利用する種にとっては生息地の分断や捕食リスクの増加といった負の影響をもたらす可能性がある。しかし、そうした列状の植生による負の影響については、水田をはじめとする農地の湿地景観ではほとんど検討されてこなかった。そのため湿地性鳥類への影響については不明な点が多い。本研究では、水田や蓮田を含む石川県河北潟地域の農地を対象に、農道沿いに植栽される防風林が鳥類の多様性および個体数に与える影響を調べた。

【方法】2021年の越冬期および2023年の繁殖期において、計43地点(防風林を含む農地18地点、防風林を含まない開放環境25地点)で定点調査を行い、鳥類の種数と個体数を記録した。

【結果】希薄化曲線から、藪や林縁を利用する鳥類の種数は防風林を含む環境で多い傾向がみられた。一方で湿地性や草原性の鳥類の種数は防風林のない開放環境で多い傾向にあった。さらに、季節や土地利用を考慮した一般化線形モデルの結果、ヒバリ(草原性)やハシボソガラス(生息地ジェネラリスト)の個体数密度が防風林環境で少ない傾向にあり、ムクドリやモズ(いずれもジェネラリスト)、キジバト(林縁性)の密度は防風林環境で多い傾向がみられた。

【まとめ】防風林は藪や林縁を利用する鳥類にとって有益である一方、一部の湿地性や草原性の鳥類の生息を妨げる可能性が示唆された。河北潟地域は、東アジア・オーストラリア地域フライウェイにおいて渡り鳥の中継地・越冬地・繁殖地として重要な役割を担う農地の湿地環境である。そのため、湿地性鳥類や草原性鳥類の保全に向け、とくに水田や蓮田の景観で防風林を管理し、開放的なエリアを確保することが提案できる。また、森林性鳥類の生息地としての機能も考慮し、防風林の配置や規模を調整するなど、農地景観のゾーニングを検討することが求められる。


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