| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H01-08 (Oral presentation)
沖縄県八重山郡竹富町の西表島では、海岸に漂着した人工物由来の海洋ごみによる環境汚染が指摘されており、それらは陸域生態系にも影響を及ぼしている可能性があるが、その汚染実態は不明である。これまでの研究により、西表島に生息するサキシマヌマガエルとヤエヤマハラブチガエルは無脊椎動物を主要な餌資源として利用することが明らかになっている。これらカエル類の消化管内からは餌となる動物のほか、植物片や砂等の無機物、さらには人工物が確認されているが、カエル類が人工物を取り込む頻度や量については未だ検証されていない。そこで本研究では、これまでに体内から人工物が検出された上記2種のカエルを対象に胃内容物を分析し、人工物が含まれる割合や検出される人工物の性状を調査した。
西表島の水田や湿地でカエル類をサンプリングし、強制嘔吐法及び解剖により胃内容物を採取した。胃内容物から大型の有機物を取り除き、過酸化水素水による酸化処理を行い、ヨウ化ナトリウム溶液を用いた比重分離により無機物を除去した後、実体顕微鏡によって検鏡し、人工物と疑われる粒子をピンセットで回収した。一連の処理後、回収した候補粒子の長径と短径を計測し、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)により候補粒子の成分を同定した。
194個体の胃内容物を分析し、13個体から14個の人工物が検出された。人工物の大きさは928-13840μmで、形状は繊維状か破片状であった。FT-IR分析の結果、人工物は植物由来のコットンやレーヨン、ポリエステル等のマイクロプラスチックであった。
西表島では海洋ゴミが風に運ばれ、海岸から遠く離れた内陸部にも移動するため、カエル類はそれらを混飲した可能性がある。本研究の成果は、人工物が生態系内にすでに取り込まれており、中間捕食者であるカエル類を餌とする鳥やヘビなどの上位捕食者にも影響を及ぼしている可能性を示している。