| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-09  (Oral presentation)

1970年代以降の都市植物相の変化:東京都府中市の事例
Changes in urban flora since the 1970s: a case study of Fuchu city, Tokyo

*吉川正人, 藤岡由起子(東京農工大学)
*Masato YOSHIKAWA, Yukiko FUJIOKA(Tokyo Univ. of Agr. & Tech)

 都市化による土地利用の変化は地域の植物相に大きな変化をもたらすが,国内においてその実態や変化の速度を具体的に示した例は少ない。本報告では,東京都府中市において,過去に行われた植物相調査,植生調査,標本記録などのデータを集約し,1970-80年代と2000-20年代の記録を比較することにより,この期間の維管束植物相の変化を明らかにした。
 1970-80年代に記録された種は,在来種728種,非在来種222種の計950種であった。一方,2000-20年代に記録された種は,在来種666種,非在来種444種の計1110種であった。総種数は160種増加していたが,これは主に非在来種が倍増したことによるもので,非在来種の割合は23.4%から40.0%に増加していた。在来種では種の入れ替わりが大きく,消失したものが141種に対して,新出したものが79種であった。消失種には,草原生の種や夏緑樹林の種が多く含まれており,都市化にともなう二次的自然の減少の影響が現れていた。新出種には,以前から生育してたが見過ごされていたと思われるものも多かったが,暖地性のラン科植物やシダ植物など,気候の温暖化を指標するものも含まれていた。
 1970-80年代は,本市での人口増加や緑地減少の速度がすでに頭打ちになっていた時期であるが,それ以降に多くの在来種が消失したことが明らかになった。また,現存する在来種で位置情報が得られた607種のうち23.7%にあたる144種は,市内54町丁目のうち1-2ヶ所でしか記録されていない低頻度出現種であった。このことから,在来種の消失は都市化による生育環境の消失から数十年の時間差をもって生じており,現在はいわゆる「絶滅の負債」を抱えた状態であることが示唆された。低頻度出現種の多くは個体群を維持するために必要な個体数を下回っている可能性があり,今後も局所的な絶滅が進行すると考えられた。


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