| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-10  (Oral presentation)

ウキクサ植物におけるストレス耐性の進化
Evolution of stress tolerance in duckweeds

*片山なつ(東京大学), 川口也和子(国立遺伝学研究所), 磯田珠奈子(県立広島大学)
*Natsu KATAYAMA(The University of Tokyo), Yawako KAWAGUCHI(NIG), Minako ISODA(Pref. Univ. of Hiroshima)

遺伝的変異は進化の供給源であり、変異の増大は進化を促進しうる。これまでに、特異な生態をもつ植物において分子進化速度の上昇が報告されており、分子進化速度の上昇が新奇形質の獲得に寄与した可能性が考えられる。では、分子進化速度上昇を引き起こす要因は何なのか。この問いにアプローチするため、顕著な分子進化速度上昇が報告されているサトイモ科ウキクサ亜科をもちいて検証を行なった。まず、亜科内5属の分子進化速度を比較したところ、亜科内の基部系統(Spirodela属、Landoltia属)と比較して、派生系統(Wolffiella属、Wolffia属)はより高い分子進化速度をもつことが明らかとなった。基部系統はアントシアニンを合成し、高緯度地域まで分布する一方、派生系統ではアントシアニンを合成せず、分布は低緯度から中緯度地域に限られる。アントシアニンが強光ストレス応答として合成されることを考慮すると、派生系統では低緯度環境への特化に伴い、強光ストレス耐性に変化が起きた可能性が考えられる。そこで、基部系統と派生系統の光ストレス耐性の違いを、弱光と強光環境における光合成速度・増殖速度の比較及びRNA-seq.解析により検証した。その結果、基部系統S. polyrhizaは穏やかな強光耐性を示すものの、弱光・強光環境のいずれにおいてもそれほど高い光合成速度と増殖速度を示さないのに対し、派生系統W. australianaは弱光下でも高い光合成速度と増殖速度を示し、強光順化により顕著な増殖速度の上昇を示した。また、強光環境では派生系統W. australianaにおいてアスコルビン酸―グルタチオンサイクルの遺伝子の発現量が上昇しており、アスコルビン酸によるROS消去活性が高まっている可能性が示唆された。このことは、派生系統において強光応答機構の変化により強光耐性が強化された可能性を示す。以上より、ウキクサ亜科の派生系統における分子進化速度の上昇において、強光環境下での高い増殖能に伴う突然変異の増加が一因となったと考えられる。


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