| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H02-11 (Oral presentation)
近年、次世代シーケンサーの発達により低コストかつ省力なDNAメタバーコーディングが可能となり、アカネズミApodemus speciosusとヒメネズミA. argenteusでも捕獲罠に排泄された糞便(排泄糞)を用いた食性分析が実施されている(Sato et al. 2018, 2019, 2022、Fujii et al. 2024)。
しかし、野外で採取した糞については、採取の際に他の植物組織が混入しないよう適切なサンプリングを行っても、風によって運ばれる花粉や胞子の混入がないことを確認することは困難である。そのため、排泄糞から風媒花植物やシダ植物が検出されたとしても、餌なのかコンタミネーション(コンタミ)による誤検出なのかの判断は難しい。これに対して、捕獲個体の直腸に残っている糞(直腸糞)は排泄糞と比較してコンタミのリスクが低いため、直腸糞から検出された植物は実際に食べられた可能性が高いと考えられる。
そこで本研究では、シャーマントラップを用いた捕獲調査の際に死亡していた11個体について、直腸糞と排泄糞の両方を採取し、葉緑体のrbcL領域を対象としたDNAメタバーコーディング解析を実施し、検出される植物種を比較し、排泄糞のコンタミの程度を検証した。
その結果、直腸糞と排泄糞いずれからも風媒花植物およびシダ植物が検出され、アカネズミとヒメネズミが風媒花植物とシダ植物を餌として利用していることが明らかとなった。また、風媒花植物とシダ植物が排泄糞に集中して検出される傾向はなかったことから、今回のようにシャーマントラップに排泄された糞については、適切なサンプリング方法によりコンタミの影響は小さくなると考えられる。
ただし、同一個体の直腸糞と排泄糞でも種構成の類似性が低いサンプルもあり、一夜で排泄された糞の中でもどの糞粒を採取するかで検出される植物種が異なることには留意する必要がある。