| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-12  (Oral presentation)

植物の花弁に見られる蛍光とその適応的意義の解明
Fluorescence in petals and its adaptive significance

*西澤空, 望月昂, 川北篤(東京大学)
*Sora NISHIZAWA, Ko MOCHIZUKI, Atsushi KAWAKITA(Tokyo Univ.)

生物は主に色素や物理的な構造によって色を作り出す。色素には特定の波長以外の光を吸収することで色を作り出すものの他に、特定の波長の光を吸収し、エネルギーの一部を別の波長の光に変換して放出する蛍光色素が存在する。生物における蛍光現象に着目すると、動物においてはサソリ、クラゲ、カエルなど様々な分類群で知られており、セキセイインコの頭部の羽毛の一部が持つ黄色いが雌雄両方において配偶者選択におけるシグナルとして機能しているなど、蛍光が生物間相互作用において機能していることが示されている例も存在する。植物においても蛍光現象は知られており、多くの種で花粉は紫外線を励起光とする青白い蛍光を放ち、一部の種においては花蜜や花弁に蛍光が見られる。しかし、これらの蛍光が生物間相互作用においてシグナルとして機能しているかどうかを実験的に検証した研究は存在しない。
 ホタルカズラを含むムラサキ科植物の数種は花弁に紫外線を照射すると青色の蛍光を放つ。ムラサキ科植物は一般的にハナバチ媒であると考えられ、ハナバチ類は紫外線や青色の蛍光を認識でき、青色の蛍光に誘引される性質があるため、ムラサキ科植物の花弁に見られる紫外線を励起光とした青緑色の蛍光は送粉者であるハナバチを誘引している可能性が想起される。
 本研究では植物の花弁の蛍光現象に着目し、被子植物の様々な種の花弁に紫外線を照射して蛍光が見られるかを確認し、複数の送粉様式を持つ種において花弁に蛍光を見出した。また、ムラサキ科植物に着目し、科内における紫外線を励起光とした花弁蛍光の有無のパターンや、組織中における蛍光物質の局在を調査した。さらに、ホタルカズラに着目して花弁蛍光が送粉者の誘引に寄与しているかどうかを、薬品を塗布して蛍光を消失させたホタルカズラや、3Dプリンタにより作成したホタルカズラの模型を用いた、複数の行動実験から検証を試みた。


日本生態学会