| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-14  (Oral presentation)

ラン科ヨウラクランの送粉生態: どのようにタマバエを誘引するのか?【B】
Pollination ecology of Oberonia japonica (Orchidaceae): How does it attract Gall midges?【B】

*砂川勇太, 望月昂, 川北篤(東京大学)
*Yuta SUNAKAWA, Ko MOCHIZUKI, Atsushi KAWAKITA(Univ. of Tokyo)

ラン科は被子植物の約10%を占める最も種数の多い科の一つである。さらにさまざまな送粉者に適応し進化した結果花の大きさや形、色に高い多様性が見られる。とりわけ小型の花をつける系統において種や花の多様性が高いことが知られ、これらの送粉生態を理解することがラン科の多様化を理解する重要な鍵となる可能性がある。
本研究ではラン科最小級の花を持つヨウラクラン属を対象に送粉生態を調査した。
日本に自生するヨウラクランとオオバヨウラクランの2種についてそれぞれ4地点と2地点で調査を行った結果、これらは夜間に訪花するメスのタマバエによって送粉されることを解明した。さらにDNAを用いてタマバエの属を同定した結果、これらのほとんどがMycodiplosis属に属した。タマバエの多くは幼虫期に植物を食べ、虫こぶを形成する生態を持つが、本属のタマバエの幼虫は植物体上に生じるサビ病菌の胞子を専食する特殊な生態を持つ。このことからヨウラクラン属は花をサビ病に擬態することで送粉者の産卵場所を探すメスのMycodiplosis属のタマバエを誘引している可能性が考えられる。この仮説を検証するため、14地点で20種の植物からサビ病組織を採集した結果、そのほとんどからタマバエの幼虫を採集した。これらとヨウラクラン属2種に訪花したタマバエについてDNAを用いた種の同定を行ったところ、ヨウラクラン属へ訪花した複数種のタマバエがサビ病を利用していることを確認した。次にGC-MSを用いて花の匂い物質を同定した結果、特定の物質が優占して検出され、粘着トラップを用いた誘引実験によりメスのタマバエに対する誘引活性を確認した。予備的な匂い分析からサビ病からも同じ物質が検出されたことから、この匂い物質が誘引と擬態に寄与している可能性が考えられる。さらに反射スペクトルの測定と双翅目の色覚モデルを用いた色の解析を行った結果、ヨウラクランの花とサビ病に感染した組織は似た色を持っていることが明らかとなった。


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