| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H02-15 (Oral presentation)
近年の研究から、一部の植物には周囲の他個体との血縁関係を認識し、遺伝的に近縁な個体に対してより協力的な行動を取る能力があることが明らかになってきた。たとえば、きょうだいと共に生育したMoricandia moricandioidesは、非血縁個体と共に生育した場合に比べて花弁サイズが大きいことが報告されている(Torice et al., 2018, Nat Comm.)。この結果は、植物が周辺個体との遺伝的近縁性に応じて、花弁への投資を可塑的に調整できることを示唆している。しかし、周辺個体との遺伝的近縁性と花弁サイズとの関係を調べた研究は未だ少なく、こうした応答の一般性は依然として不明である。
本研究では、周辺個体との遺伝的近縁性が花弁サイズに与える影響の一般的なパターンを明らかにするため、花弁サイズを進化形質とした進化シミュレーションを行った。メタ個体群モデルを採用し、植物は同パッチに存在する植物個体との遺伝的近縁性に応じて二つの異なる花弁サイズを呈す戦術から一方を採用できることとした。また、送粉者は訪問する植物を選択するときに、パッチ選択とその後の個体選択の二段階選択を行うことを仮定した。その結果、送粉者の採餌行動様式に依存して、花弁サイズは大きく異なるパターンを示した。[1]送粉者がパッチ選択において花弁が多いパッチを強く好む場合、注目個体は花を大きくすることでパッチを訪れる送粉者の数を増やし、周辺個体の受粉率を高めることができた。その結果、周囲に血縁者が存在するときには大きい花弁サイズが選択された。一方、[2]送粉者が個体選択において大きい花弁サイズを強く好む場合、注目個体が花を大きくすると、自身への送粉者の集中を招き、結果として周辺個体の受粉率を低下させた。結果として、血縁者が存在するときに小さい花弁サイズが選択されることになった。本研究の結果は、送粉者の採餌行動が、血縁認識による植物の花弁サイズの進化を方向づけることを示している。