| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-16  (Oral presentation)

十蛾十色:訪花性スズメガ類における花の向きの違いに対する行動反応の多様性
Diversity in behavioral responses of flower-visiting hawkmoths to flower orientation

*岡島紗良, 大橋一晴(筑波大学)
*Sara OKAJIMA, Kazuharu OHASHI(Tsukuba Univ.)

訪花性スズメガ類の昆虫は、いくつかの植物における重要なポリネーターまたは盗蜜者である。ホバリングしながら吸蜜するという独特な採餌スタイルから、花の形態に対する嗜好が他の多くの昆虫と異なる可能性が高い。先行研究では、とくに花の向きの選り好みが報告されているものの、その「好み」は一貫していない。これは、同じスズメガでも、体サイズやプロポーション、飛翔能力や活動時間帯などによって、吸蜜しやすい花の向きが異なる可能性を示唆している。そこで本研究では、訪花性スズメガ類の下位分類群ごとの訪花の有無と花の形質との相関(文献データ解析)、および花形態がスズメガ4種の吸蜜成功率や推定コストに及ぼす影響(室内実験)を調べた。まず、訪花性スズメガ類5グループについて、植物種ごとの訪花報告と花の特徴を文献から抽出し、ランダムフォレストを用いて花の特徴から訪花可能性を予測するモデルを構築した。その結果、スズメガはグループごとに異なる特徴の花を訪れ、とくに花の向きが訪花の重要な予測子であることが示唆された。次に、この選好性の違いの原因を探るため、昼行性2種(オオスカシバ・ホシホウジャク)、夜行性2種(セスジスズメ・ベニスズメ)の飼育個体を用いた室内実験を実施した。花弁サイズや表面の質感が異なる人工花をさまざまな角度で設置し、吸蜜行動を比較した。その結果、種ごとに(1)吸蜜に成功しやすい花角度やサイズが異なること、(2)花角度の変化に対する身体の可動域が異なること、(3)吸蜜時に花に前脚を置くオオスカシバは、花で身体角度を変えること、(4)花角度による羽ばたき速度の変化パターンが異なることが明らかになった。これらの行動差は文献データの訪花傾向と一致する点が多く、従来1つの機能群と見なされてきた「スズメガ」の中にも、得意な花形態が異なるグループが存在することを示唆しており、興味深い知見である。


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