| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H02-17 (Oral presentation)
花の向きは近縁種間でも多様であり、送粉者の誘引や効率的な送受粉、さらには雨風や紫外線からの花粉保護といった機能をもつとされる。一方、花の向きと花冠の形状に頻繁に見られる組合せの適応的意義については、十分に理解されていない。例えばユリ科植物では、上向きの花はラッパ状の花冠をもつのに対し、下向きの花では花被が強く反り返るか、あるいは筒状構造をもつことが多い。本研究では、このような花の向きと形の組合せが、主要な送粉者であるアゲハチョウによる送受粉に及ぼす影響を調べるため、オレンジ色の折り紙花の中心に砂糖水(蜜)を染ませた綿を含む人工花を用いたケージ内実験を行った。1つ目の実験では、ラッパ型の人工花を上向きと下向きに固定して並べ、アゲハに自由に採餌させた。各花には柔らかいワイヤー(花柱)と、先端の両面テープ(柱頭)からなる雌しべを取り付け、実験後に柱頭に付着した鱗粉数を受粉機会の指標として計数した。また、アゲハが各向きの花を訪れた頻度と、訪花ごとの花上での止まり位置、および口吻伸展(吸蜜)の有無を記録した。すると、下向きの花ではアゲハが花冠の外側に止まり、長い口吻で頻繁に盗蜜を試みる傾向がみられた。これは、アゲハが逆さに止まるのが苦手なためと考えられる。盗蜜時には翅が柱頭に触れにくいため、下向きの花では鱗粉付着量が有意に少なかった。2つ目には、ラッパ型、反り返り型、筒型の3種類の人工花を、すべて下向きに固定して同様の実験を行った。すると、反り返り型では、アゲハが花冠の内側に止まって吸蜜する頻度が高く、柱頭の鱗粉付着量も他の2つの型より多かった。以上の結果は、下向きの花は、強く反り返った花被と組合せることで、アゲハによる盗蜜を防ぎつつ、送粉者としての訪花を促す役割を果たすことを示唆する。今後は、筒状の花冠と下向きの組合せが送受粉に及ぼす影響について、さらに検証を進める予定である。