| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H02-19 (Oral presentation)
捕食被食関係において,餌獲得の専門化の度合いは重要な生態学的特徴の一つである。食虫植物は待ち伏せ型の捕食者であり,ウツボカズラ属など落とし穴型の捕虫葉を持つ分類群では,特定の種類の餌を選択的に捕獲する適応が知られている。しかし,粘液を分泌する捕虫葉を持つモウセンゴケ属においては,餌獲得の専門化の度合いは十分に解明されていない。本研究では,捕虫葉形質が異なるモウセンゴケ属のナガバノイシモチソウ群2種(Drosera finlaysoniana, D. makinoi)を対象に,捕獲された餌の組成と自生地における動物群集の組成を比較し,餌捕獲の専門化の程度を調べた。その結果,D. finlaysonianaでは捕獲された餌の体長が自生地の動物群集に比べて統計学的に有意に小さく,特に小型のカメムシ目を多く捕獲することが明らかとなった。これに対しD. makinoiでは,捕獲された餌と自生地の動物群集との間で体長に有意な違いは見られず,トンボ目などの大型の昆虫の捕獲も確認された。これら2種の捕虫葉の形態的特徴の違いとして,(1)D. finlaysonianaは垂直方向に,D. makinoiは水平方向に捕虫葉を展開すること,(2)D. finlaysonianaの触毛は黄色いが,D. makinoiの触毛は白いこと,(3)D. finlaysonianaでは,T0 tentacleとよばれる短い触毛の割合がD. makinoiと比較して高いことが挙げられる。これらの捕虫葉形質の違いが餌獲得の特殊化の度合いに影響を及ぼしている可能性が想定され,今後実験的手法を用いて検証される必要がある。