| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-10  (Oral presentation)

大山蒜山地域へのニホンジカ(Cervus nippon)の侵入と植生への影響
Invasion of Sika deer into the Daisen-Hirusen area and its impact on vegetation

*熊崎莉子, 日置佳之, 永松大(鳥取大学・農)
*Riko KUMAZAKI, Yoshiyuki HIOKI, Dai NAGAMATSU(Tottori Univ.)

近年、ニホンジカ Cervus nippon (以下、シカと呼ぶ)の分布拡大と個体数増加により生態系への深刻な影響が出ている。鳥取県西部に位置する大山鏡ヶ成は大山隠岐国立公園内にある貴重な山地湿原・草原で、2020年度までにシカの生育が確認されるようになり、植生の劣化や希少植物減少・絶滅が懸念されている。本研究は、鏡ヶ成地域でのシカ分布拡大状況と鏡ヶ成における植物への食害の影響を把握し、分布先端域でのシカの生息実態を明らかにすることを目的とした。鏡ヶ成周辺地域でのライトセンサス調査、鏡ヶ成でのカメラトラップ調査とシカの食痕調査を組み合わせ、シカ対策について検討した。
ライトセンサスでは、シカは鏡ヶ成南側と蒜山地域、北側の関金地域の特定の場所でのみ発見された。シカが最も多かった場所は鏡ヶ成南側であった。カメラトラップで、シカは鏡ヶ成で3/15台、鏡ヶ成南側で2/2台で撮影され、全て林内または林縁部に設置したものであった。鏡ヶ成の合計撮影回数は14回のみだったが、鏡ヶ成南側では当歳仔も撮影された。これらのことから、鏡ヶ成周辺地域では南側よりシカが侵入し生息地を拡大していることが考えられる。本地域でシカは侵入段階から定着・繁殖段階に移行しており、今後、個体数の急激な増加が生じる可能性がある。また、小雪化により今後シカの分布域はさらに大山の高標高域まで拡大していくことも考えられる。
食痕はのべ354地点で33科63種の植物に確認され、2種が希少種であった。発見場所の多くが登山道または林縁部であり、カメラトラップの結果とも整合的であった。シカ食害は全体として軽微であったが、今後の深刻化に備え、継続したモニタリングとシカの防除策が必要である。最も多く食痕が発見された植物はエゾアジサイで、広域に分布することからモニタリングの指標種として有効と考えられる。


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