| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-13  (Oral presentation)

一次遷移におけるアリ群集の食性変化:安定・放射性同位体と餌選択実験による評価
Stable‐ and radio‐isotopes and a bait‐choice experiment reveal changes in feeding habits of the ant community during primary succession

*兵藤不二夫, 田中洋(岡山大学)
*Fujio HYODO, Hiroshi O TANAKA(Okayama Univ.)

アリは植食者から捕食者まで多様な機能を持ち、生態系の栄養動態において重要な役割を果たしている。しかし、一次遷移の過程でアリ群集が餌の好みや食性を変化させるかについては、ほとんど知られていない。そこで本研究では、桜島における約70年、100年、230年、540年前の火山噴火によって形成された4つの一次遷移地において、アリ群集を対象に餌選択実験と炭素窒素同位体および放射性炭素分析を行った。その結果、一次遷移が進行するにつれて、アリ群集は動物由来よりも植物由来の餌資源をより好むようになった。これは、アリが栄養バランスを取るために、環境中の利用可能な餌資源に応じて補償的な摂食を行ったためであると考えられた。炭素同位体分析の結果からは、若いサイトではアリは主にC4植物由来の炭素に依存していたことが示された。また、窒素同位体比は種間で一貫して異なっており、アリの各種が遷移過程で植物由来・動物由来の餌資源の割合を維持していたことを示唆している。調査地ごとの変動を補正したアリの窒素同位体比は、最も若いサイトで有意に高く、古いサイトでは低かった。この結果は、ギルド内捕食、あるいは窒素固定植物の定着により植物や土壌の窒素同位体比が高くなっていた周囲のより古いサイトから飛来した餌資源への依存を反映していると考えられた。また、放射性炭素分析の結果、測定対象の2種のアリでは、若いサイトに比べて古いサイトで約2年古い餌資源を摂取していたことが示された。これは古いサイトのアリがより腐食食物網に依存していたことを示唆している。


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