| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-14 (Oral presentation)
野生動物は土地改変や狩猟圧の影響を受けやすい一方、過剰な増加が生物多様性劣化を引き起こすこともある。広域でその状態・動態やその駆動因を明らかにすることは、適切な保全や管理に向けた指標を得ることにつながるだろう。カメラトラップを使用した野生動物のモニタリング調査は世界各地で行なわれており、複数地域におけるモニタリング結果を比較することで野生動物の動態に関する広域の知見を得ることが期待される。本研究では、統一された手法で行なう世界的なカメラトラップモニタリング調査の参画地域である日本(Snapshot Japan, 2023年)とアメリカ(Snapshot USA, 2019–2021年)の結果を使用して、日本とアメリカにおける動物個体数量の相違点について検討することを目的とした。動物個体数量の指標として動物種ごとの100日当たりの撮影頻度指標(Relative Abundance Index, RAI)を算出した。カメラトラップ設置数に対する撮影種の出現頻度を算出した。カメラトラップの設置地点が所属するバイオームを9つに分類しバイオームごとに群落の多様度指数を算出した。日本とアメリカで共通するバイオームは温帯広葉混交林であり、撮影された哺乳類の種数は日本で17種、アメリカで44種であった。温帯広葉混交林における平均RAI±SDは日本で20.5±50.3、アメリカで44.1±106であった。温帯広葉混交林における出現頻度が最も高かった種は、日本ではイノシシ(RAI: 1.4–696.2)、アメリカではオジロジカ(RAI: 0.9–2228.6)であった。温帯広葉混交林における土地被覆に基づく群落の多様度指数は、日本で0.62、アメリカで2.94であった。大型草食動物は比較的広い行動範囲を持つことから、大型草食動物の出現頻度が日本とアメリカで共通して高くなったと考えられる。温帯混交林における群落の多様度指数の違いから、生息環境の違いが日本とアメリカにおけるRAIに影響を与える可能性が示唆された。今後はRAIに影響を与える具体的な環境要因について検討する必要がある。