| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-16 (Oral presentation)
日本の水田地帯は、生物にとって河川氾濫原の代替地として機能することが知られ、水田周辺の用水路には多くの魚類が生息している。しかし、利根川流域の水田地帯における魚類相の知見は限られており、特に年間を通じた魚類群集の変動については十分な知見が得られていない。本研究では、利根川流域の水田地帯を流れる中川に定点を設置し、1年以上にわたり月数回(計41回)の調査を行い、魚類群集の年間変動と物理環境要因との関係を明らかにすることを目的とした。
調査の結果、合計で6目10科21種の魚類が確認された。確認個体数はタイリクバラタナゴ、モツゴ、オイカワ、フナ類、タモロコが全体の90%以上を占めていた。NMDS解析値を用いた類型化の結果、各採捕回の魚類群集は、タイリクバラタナゴを中心とした群集、フナ類を中心とした群集、オイカワを中心とした群集、クロダハゼを中心とした群集の4つに分類された。タイリクバラタナゴ中心の群集は調査回数の過半数にあたる26回が該当し、この地点の標準的な魚類群集であった。フナ類中心の群集は降雨と強い関係があり、特に4~6月の産卵期に多く確認された。また、産卵期以外でも降雨の影響を受けていることが示された。また、オイカワ中心の群集は12月から1月の低水温期に出現し、クロダハゼ中心の群集は4月に産卵場への遡上経路としてこの地点を利用していることが明らかとなった。
これらの結果から、調査地点の魚類群集は、タイリクバラタナゴやモツゴを基盤としつつ、季節的に他魚種が侵入する特性を持つことが示された。また、降雨や水温といった物理環境要因が魚類群集の構造や変動に強く影響を与えていることがわかった。本研究の知見は、水田地帯を含む農業用水路の生物多様性保全において重要な示唆を与える。