| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-17  (Oral presentation)

気候変動下における日本の河川生態系への渇水撹乱の影響
Effects of drought disturbance on Japanese stream ecosystems under the global climate change

*中川光(土木研究所)
*Hikaru NAKAGAWA(PWRI)

世界的な気候変動に伴い、日本においても今後、降雨強度や無降水日の増加が予測されており、洪水や渇水の規模が大きくなる可能性が指摘されている。そのため、河川において水災害への対策と生物多様性保全の両面からの対策が急務となっている。湿潤な気候条件を有する日本では、ほとんどの河川が一年中通水する恒常河川である。これを反映して、日本の河川生物は、出水撹乱に対する適応とは対照的に、渇水撹乱に対しては多くの種が適応の歴史的背景を持たないことが想定される。そのため、渇水規模や頻度の増加は、日本の河川の生物多様性や生態系機能に重大な影響をもたらす可能性が高い。しかし、その具体的な影響予測はほぼない。本研究では、渇水撹乱が日本の河川生物に与える影響について、地域および局所スケールに注目して検討を行った。地域スケールでの検討では、日本国内では例外的に夏季に渇水撹乱が頻発する瀬戸内地域の河川をモデルとして、隣接する恒常河川との水生昆虫相の比較を「河川水辺の国勢調査」のデータをもとにして行った。その結果、瀬戸内地域の河川の水生昆虫の種多様性は周辺と比べて小さく、渇水が頻発する環境に適応してきたと推察される瀬戸内河川に固有の種は確認されなかった。局所スケールでの検討では、全長約800 mの実験河川を用いて夏に一週間程度の人為渇水を起こす操作実験を行った。2022年には渇水撹乱に伴う河川群集の崩壊プロセスに、2023年には通水再開後の回復プロセスに着目した実験観察を行った。その結果、瀬切れ発生時には、魚類は水の残る淵に移動して少なくとも一部は生き残る一方で、底生動物は瀬が干上がるとごく一部の種を除いて大多数が淵に移動することなく死滅した。こうした大規模な死滅は、その後の回復過程にも影響し、特に明瞭な季節消長を示す種では、周辺個体群から次世代が供給されるまで生息密度が回復せず、影響が数ヶ月以上に及ぶものも存在した。


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