| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-18 (Oral presentation)
生物群集が攪乱に対してどのように応答するかを明らかにすることは、生態学における重要な課題である。これらの知見を蓄積し、攪乱の影響を予測することでより効果的な保全対策が可能になるなど、応用面においても大きな貢献が見込まれる。一般に、攪乱に対する応答は生物群集の多次元安定性で評価される。これは機能 (現存量) と組成 (種組成) の側面について、攪乱後に群集が変化する程度 (抵抗性) や元に戻る能力 (回復) の要素を同時に定量するものである。この既存の安定性を評価する方法では、攪乱群集を種組成が類似した対照群集と比較することが不可欠である。しかしながら、現実の大規模な自然攪乱は広い範囲で発生するため、種組成が類似した攪乱群集と対照群集を準備するのは現実的ではない。この制約のため、自然攪乱に対する応答を正確に把握できず、生物群集と攪乱との関係性を探究するための知見が十分に蓄積されていないのが現状である。
そこで、本研究では、単一の生物群集の時系列データを参照することで、自然攪乱に対しても機能と組成の側面で安定性の抵抗性、回復、弾性と時間安定性の要素を同時に定量し、これらの要素で攪乱前からの変化の有無を判断可能な評価法を作成した。次に、東北地方太平洋沖地震を経験した岩礁潮間帯の固着生物群集と移動性動物群集に適用した。
その結果、機能と組成の抵抗性と回復では移動性動物群集が固着生物群集よりも安定していた。一方で機能の弾性では固着生物群集の方が移動性動物群集よりも安定していた。これは移動性動物群集の機能の側面が攪乱後に大きく変化せず、その後も元の群集から逸脱していないため、弾性ではとらえにくかったためと考えられる。総合的に判断すると、移動性動物群集が固着生物群集よりも安定していることが示唆された。また、機能の安定性要素では回復傾向が見られたが、組成の要素では、攪乱前の状態から逸脱している傾向が見られた。