| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-19 (Oral presentation)
環太平洋地域において地震は長周期で起こる大空間スケールの攪乱であり、沿岸生物群集の超長期的な動態には地震に起因する群集構造の変動が幾度も内包されているはずである。東北地方太平洋沖地震は岩礁潮間帯の固着生物群集に対して津波と地殻変動によってそれぞれ物理的な攪乱と生息環境の変化を引き起こした。これら攪乱は地域種プールを包含する空間スケールで作用したため、地震後の群集構造は元の状態に戻るために長い時間を要する、あるいは代替平衡状態に移行する可能性がある。しかし、地震後の群集構造の変化を中長期的に追跡した例はなく、地震前の状態に戻るためにかかる時間スケールや、代替平衡状態への移行が起こるかどうかについては全く分かっていない。本研究は東北地方太平洋沖地震が直撃した岩手県沿岸23サイトにおける岩礁潮間帯生物群集のモニタリングから地震後の群集の中期的な変化を明らかにし、その方向性(回復・代替平衡状態への移行)を評価することを目的とした。そのために各サイトにおいて3つの群集レベルの尺度(総アバンダンス、優占種、群集構造)を地震前と地震後中期とで比較し、その変化を確かめた。結果から、すべての尺度において地震前と同じとなるサイトはなかった。また、18サイトでいずれかの尺度が代替平衡状態への移行を示唆した。本研究は、地震後の群集は多くのサイトで地震から10年以上経過しても変化を続けていること、尺度やサイトによって群集の変化の方向性(回復・回復途中・代替平衡状態への移行)が異なることを明らかにした。このことは地震後の群集の状態の把握には、多面的かつ多地点での評価が必要であることを示している。