| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-21 (Oral presentation)
同調性(Synchrony)は、総生物量の安定性などの群集レベルの安定性指標に影響を与えることが知られており、高い同調性は生物群集を不安定化させると理論的に示されている。高い同調性が生じるメカニズムとして種間に共通の影響を与える環境要因の影響が考えられており、このような環境要因は群集の安定性に影響を与える要因であると考えられる。本研究では、環境DNAデータベースである「ANEMONE DB」のデータから日本国内の複数地点の時系列データを用いて、沿岸魚類群集の同調性と環境要因との関係を調査した。時系列データとして、熊本、広島、京都、青森の地点の環境DNAデータを、環境変数として表層水温とPDO(太平洋十年規模振動)を用いた。RDA解析の結果、それぞれの地点の群集は表層水温の影響を受けており、いくつかの地点ではPDOの影響も受けていることが確認された。さらに、水温やPDOに対する種ごとの反応を比較することで、これらの環境要因が同調性と高める要因であることが示唆された。これまで、底生魚類群集を対象とした研究において、海水温の変動や、PDOなどの広域な海洋環境の変動パターンが、種間や地点間で共通の変動パターンを駆動し、種間の同調性を高めることが明らかにされてきた。本研究では、地点間で環境条件が異なる沿岸魚類群集においても、水温の変動や広域な気象の影響が重要であることが示唆された。本研究の結果は、気候変動が海水温や変動トレンドの変化と通じて生物群集の安定性に影響を与えることを示唆し、生態系サービスの維持や生態系の保全について一定の知見を提供するものである。