| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I01-01 (Oral presentation)
サンゴ礁生態系は生物多様性に富んだ生態系の一つであり、造礁サンゴ(以下サンゴ)がその生態系を形成する基盤生物である。サンゴは、褐虫藻や細菌、微小原生生物といった微生物と共生関係を構築するサンゴホロビオント(サンゴと微生物の共生体)として生活史を維持している。褐虫藻は光合成産物の供給やサンゴの熱ストレス耐性への寄与等でサンゴの生存に深く関わっている。近年、サンゴの共生細菌が温度変化といった環境ストレスに応じて群集構造を変化させることや、褐虫藻を保護する細菌の存在も報告されており、細菌を含む共生原核生物にも注目が集まっている。日本は緯度勾配に沿って多様な海洋環境を有しており、サンゴの共生微生物と環境の相互作用を調べるという点で地理的メリットがあるが、サンゴの微生物叢の地理的変異の報告はほとんどなされていない。そこで、造礁サンゴであるコユビミドリイシを対象に、南西諸島沿岸域の共生微生物叢を調査した。
緯度勾配による影響を調べるためのサンプリングは7地点(黒島、伊良部島、阿嘉島、大度(沖縄島)、名音および楠野(奄美大島)、住吉(種子島))、局所的な環境の地理的変異の影響を調べるサンプリングは瀬底島周辺の6地点で行った。これらのサンプルからゲノムDNAを抽出し、褐虫藻および原核生物を対象としたメタバーコーディング解析を行った。緯度勾配に着目した微生物群集解析では、大度および種子島で特異的な微生物群集を形成していた。その他の地点の微生物群集は均一な傾向にあった。瀬底島を対象とする局所的な違いに着目した解析について、すべての地点で同一の遺伝子型の褐虫藻が優占していた。また、瀬底島の西および南部ではEndozoicomonadaceae科細菌が50%以上の割合で優占しており、その他の地点の原核生物叢は比較的多様性が高い傾向がみられた。本発表では、これらの微生物群集の地理的変異の要因についてまとめて議論する。