| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-02  (Oral presentation)

外生菌根菌群集に対する気温の影響:日本産マツ属全種の解析から【B】
Temperature impact on ectomycorrhizal fungal communities: evidence from all indigenous pine species across the Japan archipelago【B】

*阿部寛史(東京大学), Helbert LIM(BRIN), 小泉敬彦(東京農業大学), 村田政穂(秋田林セ), 奈良一秀(東京大学)
*Hiroshi ABE(The Univ. of Tokyo), Helbert LIM(BRIN), Takahiko KOIZUMI(Tokyo Nodai), Masao MURATA(Akita Pref. For. Tech. Center), Kazuhide NARA(The Univ. of Tokyo)

気候変動による気温上昇は生物多様性の損失を加速させるため、生物群集の温度変化に対する影響を理解することが重要である。外生菌根菌(以下、菌根菌)は森林生態系において主要樹種の成長や実生定着を支える共生微生物であるが、温度に対する応答は十分に解明されていない。本研究では、日本列島に自生するマツ属全7種を対象に、30地点・984土壌コアから得られた11,528根端をサンガー法を用いてシーケンスし、菌根菌群集に対する気温の影響を調査した。環境傾度分析の結果、年平均気温が菌根菌の多様性および群集組成の主な説明変数として一貫して選択された。気温が高い地域では菌根菌のリッチネスが有意に低下することから、気温上昇により菌根菌の多様性が低下する可能性が示された。この相関関係は宿主の亜属(Pinus亜属・Strobus亜属)が同じ場合に特に強く(R² = 0.62–0.67)、気温の影響を適切に評価するには、分類群ごとの分析が必要と考えられる。各マツ属種に固有の菌根菌群集が形成されていた(Adonis, P<0.05)。しかし、一般化非類似性モデリング(GDM)による解析では、群集の種組成の変化は主に気温勾配によって駆動され、宿主の遺伝的距離の影響は限定的であった。菌根菌の気温ニッチ(各サイトでの出現頻度から算出した各菌根菌が出現する気温の加重平均)と宿主の気温ニッチは重なっていたことから、両者のニッチ重複によって、宿主ごとに異なる菌根菌群集が形成されたと考えられる。以上の結果から、気温上昇により菌根菌群集の多様性が低下し、種組成が変化する可能性が高いことが示された。菌根菌は森林の主要構成要素である樹木の生存に不可欠であるため、その多様性低下や種組成の変化は森林生態系全体に影響を及ぼす可能性がある。したがって、気候変動に対する森林生態系の生物多様性保全には、従来見過ごされてきた菌根菌も考慮する必要がある。


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