| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I01-05 (Oral presentation)
気候変動が長期的に続くことを踏まえると、環境の変化に伴う森林プロセスの変動を正確に予測することが重要である。特に、広域スケールでの森林の炭素吸収能のモデリングには、単位面積あたりの葉量が重要な指標となる。一般に、葉量は木部のバイオマスの関数として表現されるが、葉量は年ごとに変動すること、変動は気候条件の変化によって引き起こされる可能性があることが知られている。本研究では、気候適地(ニッチセンター)よりも温暖な環境に生育する樹木個体は、気候条件が厳しい年に葉量を増加させるという仮説を立て、東京農工大学演習林で取得した9年間のリター重量の時系列データを用いて検証を行った。
ミズナラとイタヤカエデの2種については、演習林の気温がそれぞれのニッチセンターより温暖であった。しかし、リター重量と年平均気温の間には有意な相関は認められず、葉量と年平均気温の関係がS字型の成長曲線に従う可能性が示唆された。一方、ミズナラ、イタヤカエデ、ミズキ、クリの4種については、演習林の日照時間がニッチセンターよりも長い環境であった。このうちイタヤカエデを除く3種では、リター重量と日照時間に正の相関が認められ、葉量と日照時間の関係は明確な上限を持たない線形の関係に従う可能性が示された。これらの知見を統合することで、気候変動下における森林の葉量動態の理解が進み、炭素収支予測の精度向上に貢献できると考えられる。