| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I01-06 (Oral presentation)
植物の開花フェノロジーは、気温や日長などの環境要因、花粉媒介者や種子散布者との相互作用など、多様な要因によって規定される。複数年にわたって繁殖する樹木は資源投資のタイミングに柔軟性をもつため、理論上はどの時期に花を咲かせても不思議ではない。しかし、日本をはじめとする温帯地域では、樹木が主に春に開花し、その期間が比較的短いことが指摘されている。一方、こうした研究は地域レベルや限られた種が対象であり、多様な植物群との横断的かつ広域的な比較を実施した例は依然として少ない。
本研究では、世界各地の図鑑や文献から開花期情報を収集し、樹木を含む主要な植物群の開花パターンを横断的に比較した。その結果、温帯樹木の開花期は春から初夏にかけての限られた時期に集中する一方、低木や多年草には初夏以降に開花するものが多く、さらに一年草などでは地域ごとに開花時期が分散する可能性が示唆された。
温帯樹木が春から初夏の短期間に開花を集中させる理由や、一年草の開花時期が大きく分散する理由を本研究にて解明するには至らなかったが、他の生活形との比較からは、葉の展開前に送粉効率を高められることや、同種個体間で開花を同調させることで受粉機会を確保するなどの要因が、温帯樹木の春開花に寄与している可能性が考えられる。また、一年草の開花時期が分散するのは、生息環境が不安定な場合が多いことや、生存に不適な時期を迎える前に種子を形成する必要があるためと推察される。
植物の開花フェノロジーを理解することは、生態系における送粉者や種子生産を通じた多様な生物の動態を把握し、生態系サービスを評価するうえで極めて重要である。加えて、こうした開花期パターンをより広域的・総合的に把握していくことは、気候変動などの環境変化が植物や他の生物にもたらす影響を予測し、生態系の持続性を考察するうえでも大きな意義をもつといえよう。