| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-08  (Oral presentation)

ショウジョウバカマ(シュロソウ科)の繁殖形質の地域変異と遺伝的分化
Regional variations in the reproductive traits and genetic differentiation in Heloniopsis orientalis (Melanthiaceae)

*中林楓(北海道大学), 和久井彬実(富山県中央植物園), 和田直也(富山大学), 工藤岳(北海道大学)
*Kaede NAKABAYASHI(Hokkaido Univ.), Akimi WAKUI(Botanic Gardens of Toyama), Naoya WADA(Toyama Univ.), Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

緯度・標高にともなう気温の変化に応答し、広い地理的分布をもつ植物の多くは、高緯度地域では分布域が低標高へ移行する傾向がある。日本に広く分布する常緑多年草のショウジョウバカマHeloniopsis orientalisは、主に森林帯の林床に生育する。本州中部では一部で高山帯にまで分布が確認されているが、北海道では高層湿原や高山草原などの冷涼な環境に限られ、森林帯にはほとんど生育しない。この分布パターンは、気温勾配だけでは説明ができない。この植物は、葉先に不定芽を形成して栄養繁殖を行うことが知られているが、北海道では不定芽の形成は報告されていない。本研究では、北海道と本州の計11の集団について、遺伝組成、形態特性、繁殖特性を比較し、以下の問を明らかにすることを目的とした。(1) 北海道の集団は本州の集団と遺伝的に異なるか?(2)栄養繁殖をしない北海道集団は特有の繁殖特性を持っているか?
SNPに基づいた遺伝解析と系統樹作成の結果、以下の特徴が明らかになった。(1) 北海道の山岳集団は他の集団と遺伝的に大きく異なる。(2) 北海道の低地集団は東北の集団と遺伝的に近い。(3) 本州の森林帯と高山帯の集団間には遺伝的分化は見られない。個体サイズは本州の低地集団で最も大きく、北海道の山岳集団では最小であった。花生産はどの集団でも個体サイズに比例して増加したが、開花臨界サイズは北海道、東北、本州中部の高山集団で減少する傾向があった。果実および種子の生産量は、本州中部の低地集団で最も多く、種子重は北海道集団で大きかった。本州集団は高い自家和合性を持つが、北海道の山岳集団では部分的な自家不和合性が見られた。
結論として、北海道の山岳集団は他の集団と遺伝的に異なり、種子繁殖のみによって集団が維持されており、特有の繁殖システムを進化させていることが示唆された。一方で、多くの形態的変異は遺伝的要因に依存せず、可塑的応答であることが分かった。


日本生態学会