| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I01-12 (Oral presentation)
ダケカンバは幅広い生育範囲を持つため, 様々な亜高山帯以上の主要構成種と共存して出現する. どのような環境条件でこれらの主要構成種と共存するかは, まだ明らかにされていない. そこで本研究では燧ケ岳のダケカンバ林の種組成と地形や土壌, 積雪条件との関係から, 立地の違いによるダケカンバ林の成立要因と他の亜高山帯の主要構成種との関係について明らかにすることを目的とし, 植生調査と毎木調査を行った. あわせて現地で露岩率, 傾斜, 微地形を記録し, 検土杖を用いて土壌深を測定した.
得られた植生調査票を表操作法によって分類した結果, 燧ケ岳のダケカンバ林は4つの群落に分類された. 低木層にハイマツを伴うハイマツ型(A)はハイマツ帯の急傾斜地や露岩地や新しい溶岩ドーム斜面でみられた. 高木・亜高木層にオオシラビソが出現するオオシラビソ型(B)は針葉樹林帯のギャップや傾斜地でみられた. 低木層にミヤマハンノキを伴うミヤマハンノキ型(C)は燧ケ岳の東側に偏在し, この群落のダケカンバは匍匐距離が大きい傾向がみられた. 草本層にチシマザサ1種が優占するチシマザサ型(D)は, 南面の急傾斜地に分布し, 土壌が厚い傾向がみられた.
Aはハイマツ帯の急傾斜地でみられたことから, 雪崩や雪庇の崩壊といった物理的な破壊作用によりハイマツ林が破壊された場所にダケカンバが侵入した群落, Bはオオシラビソ林のギャップにダケカンバが遷移の途中相として生育する群落, Cは季節風の影響により積雪深が大きくなる東面でオオシラビソが成立できない立地に積雪に耐性があるミヤマハンノキと共存する群落, Dはオオシラビソが定着できない強傾斜地という立地に加えて土壌が堆積しチシマザサが林床に侵入した群落である考えられる.
以上の結果から、ダケカンバは標高、攪乱、微地形、積雪環境、土壌厚などの環境要因に応じて異なる様式で主要構成種と共存し、複数の群落を形成していることが示された.