| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-01  (Oral presentation)

どのような遺伝的多様性が生産性を向上させるか:ウキクサを用いた関連解析
Exploring genetic diversity enhancing population productivity in Duckweed

*西川ことね, 高橋佑磨(千葉大学)
*Kotone NISHIKAWA, Yuma TAKAHASHI(Chiba Univ.)

気候変動や人口増加に伴って、高生産でかつ持続可能な食料生産が求められている。一方で、従来の遺伝子組み換え作物や合成肥料による方式は高コストであると同時に環境への影響が懸念されている。複数の異なる種の混作(ポリカルチャー)は持続可能な代替策として注目されるものの、管理や出荷の面で課題が残る。本研究では、遺伝的に異なる株を用いた混作、すなわち「遺伝的ポリカルチャー」に着目し、個体群内の相乗的な収量向上の条件を解明することを目的とした。実験には、無性生殖によって高い増殖能を有するウキクサ(Spirodela polyrhiza)の12の地域個体群に由来する系統を用いた。各系統について表現型を測定するともに、トランスクリプトーム解析により遺伝的変異を定量した。モノカルチャー条件と、2系統ペアによるポリカルチャー条件下で20日間の栽培実験を行ない、撮影した画像を解析して得た成長データから、成長能力を表す主成分と、内的成長率、環境収容力を算出した。これらの指標について、各ポリカルチャーにおける過剰収量と超過剰収量を評価した。多くの組み合わせで負の過剰収量が認められたが、一部の系統組み合わせで正の過剰収量や超過剰収量が現れた。各形質の表現型距離と遺伝距離を説明変数、過剰収量あるいは超過剰収量を目的変数とする重回帰分析を実施したところ、サイズの多様性が相乗的な収量向上に関与していることが明らかとなった。染色体上の1,000 bpごとの領域における遺伝的多様性を説明変数、過剰収量あるいは超過剰収量を目的変数としたゲノムワイド関連解析を行なったところ、相乗的な収量向上の程度を説明する遺伝子の変異として、光形態形成関連遺伝子が見つかった。これらの結果は、一部の表現型多様性や遺伝的多様性が個体群の相乗的な生産性向上に重要な役割を果たすことを示唆するとともに、表現型情報や遺伝情報から目的に応じた個体群を設計できる可能性を示している。


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