| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-02  (Oral presentation)

適度な遺伝的多様性が出芽酵母の増殖特性を向上させる
Moderate genetic diversity enhances growth performance in Saccharomyces cerevisiae

*冨山絵(千葉大・院・融), 村上正志(千葉大・院・理), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Kai TOMIYAMA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

人口増加に伴う食糧需要の高まりが懸念されている。食品の生産性と栄養価を向上させられるシステムの構築が求められるなか、微生物を活用した食糧生産が注目されている。産業微生物は用途に応じて選択的に改良・家畜化されてきたため、種内の遺伝子および表現型の多様性が高い。一方、製品生産の現場では、各製品に最適な微生物株が単独で用いられるのが一般的である。生態学では、種や遺伝子の多様性が個体群の生産性や安定性を変化させる「多様性効果」という現象が知られており、これは資源などの環境条件に応じて異なる生態的帰結をもたらすと考えられている。多様性効果と環境条件の交互作用を理解することは、個体群動態の最適化や食品工学における新規技術の創出につながる可能性がある。そこで本研究では、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の12株(4つのエコタイプを含む)を用い、資源条件ごとの多様性効果の発現動態と個体群サイズへの影響を検証した。単一の糖を含むシンプル培地と、10種類の糖を含む複雑培地を調製し、2、4または8株混合の共培養実験を行なった。各組み合わせの機能的多様性は、株ごとの糖代謝特性から評価した。72時間の培養中、30分間隔で吸光度を測定し、各株の単独培養時の値から予測された予測個体群サイズに対する共培養時の実測個体群サイズの割合を算出して、多様性効果の値とした。増殖パターンは株の多様さや資源条件によって異なったが、多様さが高いほど環境条件間で均一になった。多様性効果は培養開始約9時間後に顕著な変動を示し、株の多様さと資源の複雑さの交互作用が影響を及ぼしていた。特にシンプル培地では、機能的多様性が多様性効果を正に増大させたが、複雑培地では一貫した傾向が見られなかった。これらの結果をもとに、多様性効果が生じる条件や、系統の多様性との交互作用のメカニズムについて考察する。


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