| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I02-03 (Oral presentation)
多年生一回繁殖型植物は開花までに複数年を要する植物であるが、多くの場合、開花までの期間にクローナル成長を行い、持続的に増殖する。タケササ類はその代表的な例であり、発芽から120年後に開花するマダケやスズタケなどで一斉開花枯死がみられる。なぜ、これほど長い期間をかけて開花するのかは、大きな課題とされている。
理論研究では、最適な開花時間は、種子繁殖とクローナル成長という二つの増殖様式から効率の良い方を選択して最も増殖率が高くなるように選ばれると考えられる。例えば、種子繁殖が常に増殖率が高いのであれば毎年開花に進化する。よって、クローナル成長の効率が時間的に低下することで、あるタイミングで種子繁殖の方が有利になる点が存在し、クローナル成長から種子繁殖への切り替えが起こるとされている。
本研究では、空間明示的個体ベースモデルを用いて、開花時間の進化を議論する。開花時間を進化的に調整する要因の一つとして、発芽実生とクローナルに生産された植物体(ラメット)とのサイズの違いに起因する競争能力の非対称性に注目する。開花時間の進化は、ある開花時間で開花する野生型集団に、別の周期で開花する変異型が侵入するプロセスが繰り返されて駆動する。この時、発芽実生とラメットは同時に存在し、競争が生じる。一般的に、種子から発芽した実生は、クローナルに生産されたラメットと比較して小さいため、光獲得競争で不利である。開花時間が短い変異体は、野生型よりも先に開花するため、不利な競争にさらされる回数が多くなり、開花時間は長くなり続けると思われた。
数理解析の結果、実生とラメットの間での競争非対称性が強いほど開花時間が長くなった。しかし、多くの場合で、開花時間の進化は有限値に収束した。この要因として、クローナル植物が空間的に凝集することで、実生とラメットの競争が空間的に分離されるという観点から議論したい。