| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I02-05 (Oral presentation)
クサトベラScaevola taccada (Gaertn.) Roxb.(キク目クサトベラ科)は、太平洋とインド洋の熱帯・亜熱帯地域の海岸周辺に分布する常緑低木である。本種の果実には、水に浮くコルク層の果皮を持つコルク型と、それを持たない果肉型という、海流による種子散布能力の有無に関する個体間変異が存在する。この二型は広い分布域内で同一集団内に存在するが、コルク型は砂浜、果肉型は海崖の生育環境で出現頻度が高くなる。そのため、本種はハビタットシフトにともなう散布形質の進化プロセスの初期段階を理解するのによい材料である。これまでの我々の研究において、約7000個のゲノムワイドなSNP(一塩基多型)マーカーを用いた集団遺伝学的解析では、二型間の遺伝的な違いは検出されなかった。そこで今回、クサトベラにおける果実二型の遺伝的基盤を探るために、全ゲノム配列を用いたSNPs解析をおこなった。石垣島の海崖1集団において、コルク型と果肉型の25個体程度のDNAを濃度が均一になるように混合したバルクDNAの配列比較を行った。本解析の基準配列には、西表島の自殖第一世代のコルク型1個体の全ゲノム配列を用いた。コルク型と果肉型のバルク間で差のあるSNPsを探索した結果、タンパク質でも大きく変化するような、遺伝子構造に影響を与えるSNPsが少数検出された。また、抽出された多数のSNPsは特定の領域内に集中しており、その領域には遺伝子構造に影響を与えるSNPも含まれた。