| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-07  (Oral presentation)

樹木による揮発性有機化合物: 葉に貯蔵される防御物質の生産スケジュール
Optimal seasonal schedule for the production  of biogenic VOCs in trees: stored in leaves  and protecting them from herbivory and pathogens

*巌佐庸, 林玲奈, 佐竹暁子(九州大学)
*Yoh IWASA, Rena HAYASHI, Akiko SATAKE(Kyushu Univ)

 樹木は、揮発性有機化合物を放出することで、さまざまな脅威に対して防御する。イソプレンは、強い日射による葉の高温障害からの修復を促進し高温ストレス耐性を強める。モノテルペン類は蜜柑などの果実の匂いで葉からも放散され、病害虫や病原菌に対する防御の効果をもつ。セスキテルペン類は、植食者の襲撃時に捕食者を呼び寄せる情報化学物質となる。BVOC産生の季節性を理解するため、植物にとって適応的な防御スケジュールを考えた。
[モデル] 病害虫リスクや高温ストレスによって光合成器官(葉)の喪失を抑える効果に注目し、それらのリスクやストレスの到来が示す季節的パターン、放出や分解による消失速度、BVOC生産のコストなどによって、BVOCの生産スケジュールを植物が最適に選ぶとする。仮定は:
[1] 熱ストレスや病害虫のリスクは生育季節のある時期(たとえば夏)に強い。
[2] これらによる葉面積喪失はBVOCが存在すると、軽減される。
[3] 葉は春(t=0)に一斉に展開し、その後は追加されず、t=Tで落葉する。
[4] 葉のコホートによる光合成収量からBVOC生産のコストを差し引いた量を 最大にするBVOC生産スケジュールを考える。
 ポントリャーギンの最大原理を用いて解析した。結果は:
[1]光合成速度が遅い、BVOCの消失が速い状況では、BVOCを生産しないことが適応的である。
[2]イソプレンは葉に貯蔵されず、防御レベルは当日の生産量で決まる。高温ストレスの強い季節(夏)に、イソプレン生産もピークを持つ。
[3]セスキテルペンやモノテルペンは葉に蓄えられ、葉のBVOC量はその日以前の生産が影響する。消失率が小さいときや光合成速度が速いときに、BVOC生産が有利になる。
[4]光合成速度が速い、消失が遅い状況では、より多量のBVOCを生産する。BVOCを生産する期間は、リスクが高い期間よりも前になる。


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