| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I02-09 (Oral presentation)
木本性つる植物(以下、つる植物)は森林の蒸散量などに寄与しているため、その分布や環境応答の解明は生態系機能の変化の予測に重要といえる。つる植物は大径の道管を特徴とし、効率的な水分通道を示すが凍結融解エンボリズムに脆弱とされ、寒冷環境でそのアバンダンスは低下する。一方、成長型としてのつる植物は、機能形質・展葉環境・支持物利用の仕組み(以下:登攀タイプ)などに広い種間差があり、特に登攀タイプは種間差との関連性が指摘されている。しかし、つる植物内の種間差はその広域分布パタンや生態系機能において考慮されていない。本研究ではつる植物群集の生態的機能における地理的勾配の検証を目的に、そのアバンダンスの広域分布パタンにおける登攀タイプ間差を調査した。また、分布パタンにおける登攀タイプ間差を生じる要因として道管形質に着目し調査を行った。日本列島の19の森林で、約1ha調査区内の一部でつる植物を記録し、登攀タイプ別にアバンダンスと環境要因との関係を解析した。また計17の森林で、3登攀タイプ8種から幹を採取、道管形質と潜在通水度(Kp)を算出し、登攀タイプで比較した。対象地域では、Twining climberとRoot climberと呼ばれる登攀タイプが主要であり、それぞれのアバンダンスと環境要因との関係は異なった。特にTwining climberでは、気温とアバンダンスとの間に正の関係が認められたが、Root climberでは認められなかった。Twining climberはRoot climberと比べ大径の道管が大きく、Kpが高かかった。一部の種ではKpと気温の間に正の関係が認められたが、登攀タイプで一定の傾向は認められなかった。登攀タイプ間での分布パタン違いはつる植物群集の生態的機能における地理的勾配を示唆する。また、登攀タイプ間での道管形質の違いは、分布と環境要因との関係性の違いの一因と考えられた。一部の種における気温に伴う道管形質の変異は、凍結融解エンボリズムの影響による寒冷環境でのつる植物の減少を支持する。