| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-10  (Oral presentation)

茨城県のスギ人工林において斜面位置による苗木の成長の違いとその要因
Cause of different growth of seedlings along a slope in a Sugi plantation in Ibaraki

*齋藤隆実, 香川聡, 山川博美, 壁谷大介(森林総合研究所)
*Takimi SAITO, Akira KAGAWA, Hiromi YAMAGAWA, Daisuke KABEYA(FFPRI)

数ha程度の林分の中でも、植栽された苗木の成長は大きく異なる。一般的には斜面上部では成長が遅いとされているが、必ずしも予想通りにはならない。これは、成長の違いをもたらすしくみが明確でないことも一因である。もし、個体サイズに影響する要因が明らかになれば、成長の悪い部分では植栽を控え、また成長の良い部分では下刈りを早期に終了するなど、作業の手間を省くことが可能になるかもしれない。そこで本研究では、スギの樹高成長に違いをもたらす環境要因と生理的しくみを、炭素および窒素利用の観点から明らかにすることを目的とした。

調査は茨城県中部、城里町の梅香沢国有林で実施した。2014年8月に、斜面の上下方向にスギの裸苗とコンテナ苗を並列して植栽した。斜面上部および下部に調査区画を設置し、毎木調査を4成長期間継続した。また、8成長期後の2022年6月に、斜面の上下方向にライントランセクト法で個体を選択し毎木調査を行った。同時に、樹頂部付近の当年枝シュートを採取し、炭素と窒素の元素量および安定同位体比を分析した。

その結果、個体サイズについて、2成長期後には初期サイズよりも斜面位置の影響が強く表れた。8成長期後の樹高は、斜面上と比較して斜面下で約4倍も大きかった。このような斜面に沿った樹高の違いに対し、当年枝の炭素濃度は相関が弱かったが、窒素濃度は相関が強かった。これは、窒素の利用しやすさが個体の成長に影響していることを示唆している。本大会では、さらに安定同位体比の分析結果を踏まえて、利用可能な資源に対応した樹木の個体レベルの順化について議論する。


日本生態学会