| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I03-02  (Oral presentation)

ヒメツリガネゴケAP2転写因子過剰発現体の赤色光応答
Red light response of physcomitrella patens AP2 overexpressor

*Koruri SEGAWA(Kyoto Institute of Technology), Yuko HANBA(Kyoto Institute of Technology), Tomomichi FUJITA(Hokkaido University), Huong Thi DO(Hokkaido University), Miyu TAKADA(Hokkaido University)

人類の宇宙探査において、宇宙空間での植物栽培は食料供給や閉鎖系生態系の構築の観点から必要不可欠である。コケはストレス耐性が高く、省スペースで栽培可能なため、宇宙での利用が期待されている。ヒメツリガネゴケは過重力下で生育が促進され、AP2/ERF遺伝子の発現が上昇することが明らかになっている。また、AP2/ERF遺伝子は赤色光応答としても発現が上昇する。  
本研究では、AP2転写因子の過剰発現が赤色光下で光合成速度や葉緑体サイズ、ストレス応答に与える影響を調査した。光合成速度の測定では、野生型に栽培条件による有意な差はなかったが、AP2発現量が最も多い#202系統では赤色光による有意な増加が確認された。他の過剰発現系統ではこの傾向が見られず、発現量が不十分だった可能性がある。  
葉緑体サイズの測定では、赤色光下で野生型・過剰発現体ともにサイズの増加が確認された。一方、白色光生育株の比較では、一部の過剰発現系統で葉緑体が野生型より大きくなり、AP2の過剰発現が葉緑体サイズを増加させるという先行研究と一致する結果となった。
先行研究では、AP2過剰発現が過重力応答に似た形質(光合成速度やCO₂拡散コンダクタンス、葉緑体サイズの増加)を示すことが報告されており、本研究では、赤色光がこの応答をさらに強化する可能性が示唆された。  
さらに、赤色光生育野生型および過剰発現体で葉面積の減少が観察されたことや、植物がストレス環境下で成長速度を抑制することから、AP2の発現がストレス応答を促し、ストレス耐性を高める可能性が考えられる。しかし、ストレス環境下での応答は未検証であり、今後は発現量と赤色光応答の関係を明らかにし、長期的な影響やストレス耐性の向上について詳しく調べる必要がある。


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