| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I03-06 (Oral presentation)
植物は、人類の宇宙環境での長期滞在において重要な役割を持つ。中でもコケ植物はパイオニア陸上植物であり、地上のあらゆる極限環境に適応して土壌を形成するなど、荒地緑化に必要不可欠な役割を果たす。宇宙で植物を栽培するためには植物の重力応答の解明が求められる。これまでの研究では、植物の生長や器官形成に関与する転写因子AP2相同遺伝子群が重力に応答して発現が増減し、光合成能力も変動することが明らかになった。このことからAP2転写因子が低重力で引き起こされる成長低下を抑制するための有効な対策となり得ると考えられる。本研究ではAP2転写因子を過剰発現させたヒメツリガネゴケを3Dクリノスタットの模擬微小重力下( µg )で栽培した。光合成能力の測定、形態観察を通して、AP2がコケ植物の模擬微小重力応答に果たす役割を探ることを目的とした。
1×g条件とµg条件でヒメツリガネゴケの野生型とAP2過剰発現体を栽培したところ、すべての系統で1×g条件下と比べ、µg条件下での光合成速度が低下したのに対し、予想と反して葉緑体のサイズは拡大した。国際宇宙ステーションにおける微小重力下での実験では、光合成速度と葉緑体サイズは共に低下・縮小したため、葉緑体サイズの増加は重力の減少ではなく3Dクリノスタットの回転の影響である可能性が考えられる。また、AP2過剰発現体では、どちらの重力条件でも野生型の光合成速度を大きく上回り、葉緑体のサイズも同様に拡大した。以上から転写因子AP2は葉緑体サイズに関与し光合成速度を上昇させることが示唆され、模擬微小重力下においてもその働きを維持することが確認できた。
今後は、転写因子AP2の発現量を解析することで3Dクリノスタットのµg条件がAP2の発現に影響をもたらすのかを調査する。そしてµg条件での光合成低下・葉緑体サイズ拡大のメカニズムの解明に迫り、地球上での微小重力実験のさらなる進展に貢献したい。