| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I03-10 (Oral presentation)
野生植物において、ウイルスが広く感染していることが次世代シーケンサーの解析により明らかになりつつある。植物はウイルスを排除する機構を持たないため、多年生植物では、一度感染すると長期に感染状態が持続する。常緑多年草ハクサンハタザオの兵庫県の自然集団では、30%以上の個体がカブモザイクウイルス(TuMV)に感染し、多くの個体が感染状態で越冬・繁殖を繰り返している。しかしながら、ウイルス感染が植物にどの程度影響を与えているか、特に冬季ストレス下での影響についてはほとんどわかっていない。これまで、ハクサンハタザオの遺伝子発現解析によりTuMV感染個体でフラボノイド合成遺伝子の発現が低下していることを明らかにしており、アントシアニン量の低下が予想される。アントシアニンは冬季に誘導され、光防御や葉温上昇などの効果を持つことが報告されている。
そこで本研究では、TuMV感染によるハクサンハタザオの冬季のアントシアニン蓄積量と、 その光阻害・凍結耐性に対する影響を評価した。ハクサンハタザオ自然集団において12月に葉のアントシアニン量を調べたところ、TuMV感染個体で顕著にアントシアニン量が少ないことが分かった。次に、ハクサンハタザオをTuMV非感染・アントシアニン蓄積、 非感染・アントシアニン非蓄積、感染・アントシアニン非蓄積の3グループに分けクロロフィル蛍光から得られる光化学系IIの活性を調べたところ、 グループ間で有意な差はなかった。一方、 凍結耐性はアントシアニンの有無で違いがなかったが、感染の有無で違いがあり、感染個体の下位葉で有意に低下していた。これらのことから、TuMV感染はハクサンハタザオのアントシアニン蓄積と凍結耐性の低下を引き起こすが、若い上位葉の凍結耐性を維持することで、植物全体としてのダメージを低減する機能が働いていることが示唆された。発表では、遺伝子発現解析の結果も報告する。