| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I03-14  (Oral presentation)

バイケイソウ個体群における一斉開花現象の進化的意義:開花同調度と選択圧の関係
Evolutionary significance of mast-flowering in Veratrum album: Relationship between flowering synchrony intensity and its selective pressure

*伊藤陽平, 工藤岳(北海道大学)
*Yohei ITO, GAKU KUDO(Hokkaido Univ.)

一斉開花現象とは、数年ごとに個体群内の多くの個体が同調的に花や種子を大量に生産する現象である。その進化生態的意義としては、植食者からの食害回避や送粉者の誘因による受粉効率の向上が有力で、一斉開花を引き起こす生理的メカニズムとしては、共通の環境シグナルの存在が示唆されている。生育地特有の選択圧によって、同一種内でも開花特性に変異が生じると考えられる。バイケイソウ(シュロソウ科)は、低地から高山まで分布し、個体群レベルで一斉開花する。低地と高山で送粉者や植食性昆虫の組成や頻度が異なる場合、異なる開花特性が進化している可能性がある。本研究では、低地と高山個体群で開花同調度・生態的意義・生理的メカニズムを比較し、一斉開花の進化プロセスを検討した。
北海道の低地5個体群と高山4個体群で2019〜2024年に開花個体の割合(以下開花率)を記録し、食害率や結果率との関係性を解析した。個体群内の開花同調度は、設置したプロット間の開花率の相関係数で評価した。さらに、過去10年の開花記録を基に開花率と気象条件との関係を解析した。
低地個体群では高山個体群よりも開花同調度が高かった。低地個体群では花茎と種子の食害が強かったが、開花率の高い年には大幅に低下した。高山個体群では花茎食害は見られず、軽度の種子食害のみが観察されたが、中程度の開花率で食害は低下した。いずれの個体群も開花率が高い年に結果率が向上したが、その傾向は低地個体群で顕著であった。また、冷涼な年の2年後に開花率が高まる傾向があり、特に低地個体群は温度変化に敏感に反応していた。
以上から、バイケイソウの一斉開花現象は食害回避と受粉成功が選択圧として作用し、低温条件をトリガーに開花が同調することが明らかになった。低地個体群では生態的意義が顕著であり、気象シグナルに敏感に反応して開花を同調させる性質が進化したと考えられる。


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