| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) I04-01  (Oral presentation)

伐採後のボルネオ熱帯降雨林におけるシダ・ツルに覆われた森林の動態とその拡大【EPA】
The dynamics and expansion of forests covered with ferns and vines in  logged-over Bornean tropical rainforests【EPA】

*竹重龍一(国立環境研究所), 小松孝太朗(京大・農・森林生態), 今井伸夫(東京農大), Sandy Tsen Tze LUI(Sabah Forestry Department), Reuben NILUS(Sabah Forestry Department), 北山兼弘(サバ大学)
*Ryuichi TAKESHIGE(NIES), Kotaro KOMATSU(Kyoto Univ.), Nobuo IMAI(Tokyo Univ. of Agriculture), Sandy Tsen Tze LUI(Sabah Forestry Department), Reuben NILUS(Sabah Forestry Department), Kanehiro KITAYAMA(Univ. Malaysia Sabah)

攪乱後の熱帯低地林は高い回復力を持ち、攪乱後数数十年程度で老齢林水準までバイオマスを回復しうると報告されてきた。しかし、近年、条件によっては熱帯林の回復力は低下しうる、ということが明らかになりつつある。ボルネオの木材生産林にて我々が実施した先行研究では、強度伐採後の森林の林床・林冠をシダ・ツルが被覆し、30年以上が経過しても森林構造を回復できていない事例を報告した。森林調査区での局所的な研究から、シダ・ツルが樹木個体および林床を被覆することで、樹木個体の成長・更新・死亡に影響を与え、二次遷移の進行を停滞させることが示唆された。今後シダ・ツルが時間とともに周囲へ拡大し景観上でシダ・ツルの占める面積が大きくなると、種子散布起源となる森林が減少するため、残存する森林の人為回復後の回復ポテンシャルを一層低下させると考えられる。このようなシダ・ツルの景観レベルへの森林動態への影響を実証した例はない。
 本研究は、マレーシア・サバ州の木材生産林にて実施した。発達した二次林から劣化林までをも含む半径20 mの円形調査区を25個設置し、胸高直径10cm以上の樹木を対象に2014年から2024年までに4回の毎木調査を行った。直近の二回の調査ではドローン空撮と写真測量によりシダ・ツルの広域分布と周辺の森林の発達度を算出し、それらを用いて、①調査区の周辺の森林の状態と調査区内の樹木動態の関係、②シダ・ツルに覆われた森林の広域(数haレベル)での拡大傾向(5年間)を解析した。
 その結果、シダ・ツルに覆われた森林の割合が増えるほど、樹木の更新個体数は低下した。また、5年間でシダ・ツルの被度は減少せず、安定的に維持された。これらの結果は、シダ・ツルに覆われた森林が広域に広がることで、森林生態系が本来の原生林へと回復する力の低い”安定状態”に陥り、その状態が中長期的に持続するという仮説を支持する。


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