| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) I04-03 (Oral presentation)
地下部の炭素貯留は、森林生態系の炭素収支と生産性維持にとって不可欠である。熱帯地域では高温によって分解が促進されるが、一部の土壌有機物(SOM)は鉄・アルミニウム鉱物と結合して分解から保護され、安定化する。しかし現在、熱帯雨林の大部分は土地利用によって二次林に変わり、土壌炭素を含む地下部環境も変化していると考えられる。
本研究は、択伐後の劣化した熱帯雨林に見られる土壌炭素貯留量の低下メカニズムを検証した。作業仮説として、地上部バイオマス(AGB)の低下によるリター供給量の減少、及び土壌の還元化による鉱物の還元的溶解と安定化したSOMの開放、の2点の要因を検証した。後者については、林冠開放により蒸発散が低下することで土壌含水率が上昇し、還元環境に急激にシフトし、鉱物の還元的溶解と炭素放出を引き起こす経路を考えた。
調査は、マレーシア・ボルネオ島にある2つの木材生産林で行った。原生林から高度な劣化林まで多数のプロットを設置し、リモートセンシング、フィールド調査、化学分析を含めた統合的な手法を用いて、仮説を検証した。リター供給指標としてのAGB、林冠の構造的変化を示す開空度と葉面積指数(LAI)、土壌環境の指標含水率(VSWC)と酸化還元電位(Eh)、及び土壌炭素濃度と鉄鉱物量を測定した。
伐採後の二次林では、原生林と比べて、VSWCは27%から40%以上に有意に増加した。さらに、AGBが原生林水準の半分以下に下がると、土壌が還元状態(Eh7≤0.05V)に急激に変わった。還元的土壌における非晶質鉄(SRO Fe)鉱物濃度は、酸化的土壌(Eh7>0.05V)より有意に低かった。その低下は下層(20~30cm)土壌での炭素減少と有意に相関していた。以上の結果は、地下部の酸化還元電位が伐採に非線形的応答を示すことで、地下部のレジームシフトを引き起こす可能性を示唆した。