| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-01  (Oral presentation)

ニホンミツバチの分蜂回数の増加がコロニーの生残に与える影響
The effect of increased swarmings on colony survival in Japanese honey bees

*森井清仁, 坂本佳子(国立環境研究所)
*Kiyohito MORII, Yoshiko SAKAMOTO(NIES)

ミツバチの分蜂は、女王と多数のワーカーが元の巣を離れて新しい巣を作る繁殖行動である。2024年に公開した我々の論文では、ニホンミツバチApis cerana japonicaにおける春から初夏の1コロニーあたりの分蜂回数(以下、分蜂回数)が、2000–2022年の間に増加したことを示した。しかし、その増加要因や個体群に与える影響については不明であった。分蜂回数が増えた場合、少なくとも一時的にはコロニー数が増加するが、分蜂を過度に繰り返すとコロニーが崩壊しやすくなることを考えると、最終的に存続するコロニー数は減少し、ニホンミツバチ個体群が衰退する可能性も否定できない。本研究では、ニホンミツバチ養蜂者と協力することで、分蜂回数、給餌状況、分蜂前のコロニーサイズ、分蜂後のコロニーの存続などのデータを収集し、分蜂回数を決定する要因と個体群への影響を解析した。その結果、分蜂回数は分蜂前のコロニーサイズが大きくなると有意に増加すると推定された。この結果から、分蜂回数の増加は、近年の気温上昇により冬季のワーカーの死亡率が低くなったことで、大きなコロニーサイズのまま分蜂時期(主に春)を迎えやすくなったことが一因であると考えられた。分蜂回数と分蜂後に元の巣を引き継いだ群のコロニー存続率について解析した結果、分蜂回数が増加しても存続率が有意に低下するとはいえなかった。さらに、第1分蜂群から第6分蜂群が生じる各確率および分蜂しない確率と、その後のコロニー存続率から、2023–2024年間のコロニー数の変化を計算したところ、ニホンミツバチのコロニー数は増加したと推定された。これらの結果から、今後、分蜂回数が多くなるにつれてニホンミツバチ個体群は増加することが示唆されるが、より正確な推定のためには、気候条件や地理情報などを考慮したさらなる解析が必要である。


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