| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-02 (Oral presentation)
生物の集団遺伝構造の決定要因の一つとして各遺伝子型の到達順がある。これは、先に到達した遺伝子型が適応や増殖に有利になる先住効果(priority effect)として知られ、メソコスム実験などで実証されている。その一方で、野外の集団 においては検証例がほとんどない。本研究では、湖沼堆積物中に保存されるミジンコ(Daphnia cf. pulex sensu Hebert)の休眠卵を用いることで、個体群形成初期及び 過去からの集団遺伝解析を行った。日本に生息するミジンコは、北米由来の遺伝的に離れた4系統から構成される。本研究では2系統(JPN1, JPN2)に着眼し、これらが同所的に生息しているとされる6湖沼において長期集団遺伝動態を分析した。これにより、先住効果から予想されるように、先に出現した遺伝子型が個体群で優占するかどうか検証した。6湖沼(畑谷大沼・安達沼・中山のため池・江木沼・ひょんの池・深見池)で採集した堆積物コアサンプルを1cm間隔で切断し、年代推定 ・栄養塩(全リン)動態・クロロフィル a動態・捕食者となるフサカ幼虫の動態・休眠卵を用いた集団遺伝動態の分析を行った。年代推定は210Pb法で行った。休眠卵はPCR-RFLPで核DNA配列を判別 し、2系統の個体数変動を分析した。加えて、ミトコンドリアDNAに基づく遺伝子型分析も行った。6湖沼のうち、2系統の共存が見られたのは4湖沼であった。そのうち畑谷大沼・中山のため池・ひょんの池では、個体群形成初期・古い年代 に2系統が共に見られ、近年ではJPN1が優占した。ひょんの池ではJPN2は消失した。一方で深見池では、個体群形成初期はJPN2のみからなり、10年後にJPN1が出現したが近年までJPN2が優占していた。GLMMの結果、栄養塩濃度・クロロフィルa濃度・フサカ幼虫は2系統の存在比に有意な効果を示さなかった。以上より、早期移入と、系統間で離れた移入時期がJPN2の優占を促進した可能性が考えられる。このように、移入順がミジンコの集団遺伝構造を決める重要な要因となる可能性が考えられる。