| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-03 (Oral presentation)
カモフラージュしている生物は、色・パターン・形態などの組み合わせを通して、背景となる物体に溶け込んだり、食べられないモデルに似せたりする。鱗翅目スズメガ科幼虫では一般的に緑色型が多く、近い色の葉にカモフラージュしていることを支持する研究も多い。しかし、スズメガ科幼虫の体色は緑一色ではなく、斜条とよばれる斜めの平行線模様が入る種が多い。また、殆どの種で尾角と呼ばれる突起を尾部に持ち、全体の形状も特徴的である。本研究では、それらの模様や形も含めて葉への類似性を評価することを目的とする。
まず、既存の系統樹をもとに、斜条と尾角がスズメガ科幼虫に一般的に見られる形質であることを確かめた。次に、斜条と尾角を持ちスズメガ科幼虫として一般的な形質であるモモスズメ(Marumba gaschkewitschii)終齢幼虫を用いて、色・模様・形を定量化し、その寄主植物の1つであるサクラの葉と比較した。色は、幼虫の各部位と葉を分光器で測定し、実際の捕食者である鳥の視覚モデルを用い、斜条とその他(以下『地の色』)、あるいは葉脈とその他(以下『葉身』)で異なる色に見えているかどうかを調べた。模様は、斜条と葉脈の配置パターンが似ているかを、斜条または葉脈の角度・太さ・間隔を計測することにより確かめた。形は、画像の幼虫または葉の先端から先端まで101ヶ所の太さを測ることで、輪郭を定量化し、それらのデータをPCAを用いて類似度を調べた。
スズメガ科全体では、広葉樹を寄主植物とする種で一般に斜条・尾角が見られた。鳥から見た色は、斜条と地の色、葉脈と葉身で有意に異なる色であった。斜条の角度・太さ・間隔は、葉の葉脈と近い値を取った。形のPCAでは、尾角のある幼虫の方が無いものより葉柄のある丸まった葉に近い値を取った。
以上の結果から、スズメガ幼虫は、体部分を占める地の色だけではなく、模様と形も合わせて、広葉樹の葉全体へのカモフラージュになっていると考えられた。