| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-06  (Oral presentation)

両生類の変態モデルを用いて推定した生活史パラメータの集団間比較
Comparison of life-history parameters among populations estimated by a metamorphosing model

*岩井紀子(東京農工大学), 立木佑弥(東京都立大学)
*Noriko IWAI(TUAT), Yuuya TACHIKI(Tokyo Metropolitan University)

生物の生存率や成長率といった生活史パラメータは、フィールド調査で直接測定するには非常に労力がかかる。しかし、対象の生物の持つ生活史戦略は、これら生活史パラメータに左右されると考えられることから、生活史戦略の決定機構からパラメータ値を引き出すことが可能と考えられる。両生類において,変態点(時期とサイズ)の最適化は,適応度の向上のための重要な戦略である。変態点の決定は、両生類幼生が生息する水域環境の現状と、陸域において進化的に期待される成長率や生存率といった生活史パラメータに依存すると考えられる。本研究では,両生類幼生が変態点の決定に利用している生活史パラメータの値を逆推定することで、成長率、生存率を推定した。ニホンアカガエルを対象種とし、都市度(周囲3 ㎞以内の建物率)の異なる10集団から採取した卵(N=27-45)を3段階の餌量で変態まで個別飼育した。飼育中は3-4日に1度体重測定を行い、その結果をゴンぺルツの成長曲線に当てはめた。実際の変態点を各個体の成長曲線の下での最適解であるとみなした。両生類幼生の変態点決定機構を表現した数理モデルを用いて、各成長曲線下における最適変態点を計算した。最適変態点モデルを実際の変態点にフィッティングすることにより、集団ごとに生活史パラメータを決定した。決定には遺伝的アルゴリズムを用い、各集団20 回の試行を行った。推定したパラメータのうち、陸の生存率、成長率については集団間で相違は認められなかったが、変態サイズが陸の生存率に与える影響力は都市度が高いほど低かった。これは、都市の集団ほど、大きな変態サイズであっても死亡率が下がりにくいことを示す。本手法は、多集団における生活史パラメータの推定を可能とし、環境変異に対する野外集団の反応を検証することを容易にするものである。


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