| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-07  (Oral presentation)

GPS追跡で明らかになったカラスバトの移動経路と生息環境【B】
Movement and habitat use of Black Wood Pigeon revealed by GPS tracking【B】

*安藤温子(国立環境研究所), 飯島大智(筑波大学), 市石博(国分寺高校)
*Haruko ANDO(NIES), Daichi IIJIMA(University of Tsukuba), Hiroshi ICHIISHI(Kokubunji High School)

島嶼生ハト目では、多くの島嶼生物と同様に飛翔能力が低下する傾向が見られる一方で、一部の種が島嶼への定着後も飛翔能力を維持もしくは向上させ、生息地の諸島を形成する島々を移動している。このメカニズムを理解することは、島嶼生態系における鳥類の適応や機能を評価する上で重要である。
カラスバトは日本と韓国周辺の島嶼にのみ生息し、島々を移動することが知られている。その移動パターンや駆動要因について、これまで特定の島における観察によって断片的に評価されてきたが、諸島全域における動向はほとんど分かっていない。本研究では、伊豆諸島においてカラスバトのGPS追跡を行い、本種の移動経路と利用環境を明らかにすることを試みた。
2022年から2024年にかけて大島 (n=5) 、八丈小島 (n=3)、青ヶ島 (n=12)で捕獲または保護されたカラスバトにGPS発信機を装着して追跡したところ、このうち13羽が異なる島に移動した。一度の島間移動距離は、八丈島-八丈小島の約4kmから、八丈島-大島の約170kmに及んだ。主要な繁殖地である青ヶ島では、繁殖が終了する8月下旬から9月にかけて他島への分散し、翌春に帰還する傾向が見られた。一方、繁殖期間中も不定期な移動を繰り返す個体も確認され、その要因は不明である。
環境省植生図を基に追跡個体の利用環境を解析したところ、これまでカラスバトの主要生息地として考えられてきた常緑広葉樹林の他、植林地や笹林にも選好性を示した。島間移動に伴う生息環境のシフトも確認された。
一連の追跡により、実際に本種が伊豆諸島全域を広範囲に移動し、柔軟な生息地利用をしていることが明らかになった。移動の季節性やその駆動要因については、各島の環境や資源量の季節性などを踏まえた調査が必要である。


日本生態学会