| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-08  (Oral presentation)

集団遺伝学的手法を用いたユビナガコウモリの季節移動とその空間スケールの推定
Estimating the seasonal migration patterns and its spatial scale of Eastern Bent-wing Bat (Miniopterus fuliginosus) using population genetic methods

*秋山礼, 兼祐翔, 後藤晋, 福井大(東京大学)
*Rei AKIYAMA, Yuuto KANE, Susumu GOTO, Dai FUKUI(Tokyo Univ.)

コウモリは、一部の種において季節に応じた移動をすることが知られる。日本において洞穴性コウモリ(ねぐらが洞穴に限られるコウモリ)は、夏季に特定の洞穴に集合し出産哺育を行い、その後、越冬のために出産哺育地と異なる洞穴へ移動する。このような洞穴性コウモリの季節に伴う出産哺育地と越冬地を結ぶ移動(季節移動)が、どのように行われているのかは不明な点が多く、コウモリの基礎生態の解明において重要である。コウモリの季節移動については、これまで標識再捕獲法を用いた研究が行われてきた。しかし、この手法はコストが大きい割に非効率であり、限られた種や地域でしか調査が行われてこなかった。
ユビナガコウモリは、日本における代表的な洞穴性コウモリである。国内では本州・四国・九州とその周辺島嶼に生息し、最大10万頭に及ぶ大集団を形成して出産哺育と越冬を行う。また、国内では出産哺育地が15箇所、大規模な越冬地は30箇所程度が知られている。本種の出産哺育地と越冬地間の季節移動については、標識再捕獲法によって地域スケールでの解明を試みた研究は存在するものの、全国スケールで行われた研究は存在しない。そこで、本研究では国内の分布域すべてを網羅し、集団遺伝学的手法を用いることで、ユビナガコウモリの季節移動の空間スケールについて推定を行った。
本研究では、全国の出産哺育地と越冬地で捕獲した個体を用いた。出産哺育集団では、mtDNAと核マイクロサテライト領域を対象として、越冬集団ではmtDNAを対象として集団遺伝学的解析を実施した。具体的には、各出産哺育集団の遺伝構造を明らかにし、集団間の遺伝子流動の程度を明らかにした。加えて、出産哺育集団と越冬集団の集団遺伝構造を比較した。本発表では、今回の集団遺伝学的な解析結果と従来の標識再捕獲法から得られた知見を比較することで、全国スケールでのユビナガコウモリの季節移動について考察を行う。


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