| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-09 (Oral presentation)
シロアリのコロニーは有翅生殖虫の雌雄ペアにより創設される。有翅生殖虫の性比や体サイズなどの形質は、創設初期のコロニーの生存率に大きな影響を与え、強い自然選択を受けると考えられる。ヤマトシロアリの有翅生殖虫の性比はメスに偏ることが知られる。その理由として、(1)メス2個体が創設し単為生殖で繁殖するコロニーがあるため、(2)古いコロニーでは創設王が二次王と交替し、雌の繁殖価が高まるため、という2説が提唱されている。またアリでは、高緯度(低温)地域ほど体サイズが大きくなる緯度クラインが報告されているが、アリとよく似た生活史を持つシロアリではそのような報告はない。
本研究では薩南諸島から北海道まで分布するヤマトシロアリの16集団の157コロニーについて有翅生殖虫(または終齢ニンフ)の性比を調査した。また10集団64コロニーで有翅生殖虫の頭幅と平均乾燥重量を調査した。
有翅生殖虫の個体数性比と性投資費は大部分の集団で有意にメスに偏った。有翅生殖虫を生産している全てのコロニーは雌雄両方の個体を含み、単為生殖だけで繁殖するコロニーはなかった。このため性比の偏りに関する(1)の仮説は否定される。本種では高緯度地域で王が交替したコロニーの比率が高まると考えられ、仮説(2)が正しいならばメス率も高緯度であるほど高いことが予測される。しかし、個体数比・性投資比ともに、高緯度ほどメス率が高くなる明確な傾向は見られなかった。一方で、生息地の緯度がより高く(より低温に)なるに従って、性比のコロニー間のばらつきが有意に大きくなり、性比の分布が二山分布に変化した。このような特徴は局所的配偶者競争やきょうだい間交配の回避を反映したものである可能性が考えられる。
また本研究により、シロアリで初めて有翅生殖虫の体サイズ(頭幅・平均重量)と生息地温度の間に明確な負の相関が見出された。