| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-10  (Oral presentation)

クロオオアリ女王の蟄居型創設における貯蔵資源の幼虫への給餌
Feeding larvae with stored resources during claustral foundation by Camponotus japonicus queen

*居橋勇祐, 宮崎智史(玉川大学)
*Yusuke IBASHI, Satoshi MIYAZAKI(Tamagawa Univ.)

 コロニー創設はアリの生活史において重要なステージであり,死亡するリスクが高いステージでもある.派生的なアリ種では,交尾を終えた新女王が単独で地中などに営巣し,一切の採餌を行わず最初のワーカーを養育する,蟄居型創設と呼ばれるコロニー創設を行う.蟄居型創設中,新女王は自身の体内に貯蔵した資源を用いて幼虫を養育する.その際,不要になった胸部の飛翔筋に由来する餌資源を利用し,胸部の食道が拡張することでできた胸嚢と呼ばれる貯蔵器官に貯蔵すると考えられてきた.しかしながら,胸嚢内に貯蔵された物質を新女王が幼虫に直接給餌するのかを確かめた例はない.そこで本研究では,日本に広く分布し,体サイズの大きいクロオオアリCamponotus japonicusの新女王を対象に,創設期間中に胸嚢が形成されるか,そして胸嚢内の貯蔵物が幼虫へ直接給餌されるかを調査した.
 クロオオアリ新女王を給餌せずに単独で創設させた結果,3週目に最初の幼虫が孵化し,7週目には最初のワーカーが羽化した.この結果から,少なくとも3-6週目の間は胸嚢に幼虫への給餌物が貯蔵されていると示唆された.そこで創設開始0-8週の新女王の胸部食道の太さを計測したところ,4週目以降に食道の一部が拡張し,胸嚢が形成された.また,胸嚢形成に先立って胸部の飛翔筋が退縮することが分かった.さらに,5週目の新女王に食紅入りの水を与えて胸嚢内に貯蔵された液体を染色したところ,翌日には幼虫の体内も染色された.加えて,幼虫齢を判別したところ,新女王は老齢幼虫に対して選択的に直接給餌していることが分かった.以上の結果より,蟄居型創設を行うクロオオアリ新女王では,限りある資源を無駄なく分配する戦略がとられており,幼虫齢によって選択的な給餌を行う行動と,育児期間中に形成される胸嚢という形態は,蟄居型創設戦略に適応的だと示唆された.


日本生態学会