| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J02-01 (Oral presentation)
アマミイシカワガエルOdorrana splendida(以下本種)は琉球列島奄美群島の鹿児島県奄美大島のみに分布し,環境省RLでは絶滅危惧ⅠB類,鹿児島県RDBでは絶滅危惧Ⅰ類,鹿児島県の天然記念物に指定されている希少種である.先行研究によると本種の繁殖期は1月から4月の冬季から早春であるが, 2011年にこれまで事例のない秋季の9月28日に,奄美大島南西部で本種と考えられる卵塊を複数確認した.卵塊は同所的に生息し秋季にも渓流で繁殖する同属のアマミハナサキガエルO. amamiensisの可能性もあるが,過去に調査地付近ではアマミハナサキガエルの繁殖は確認されていない.また, 卵塊が確認された場所は渓流の伏流水が湧き出ているごく水深の浅い岩穴の隙間付近で,本種が産卵場所として好む環境であった.新知見を得るためには継続的な追調査が望ましかったが,調査地はアプローチが悪く大雨や台風による道路の寸断が繰り返され,6年間中断されていた後調査を再開した.その結果2017年10月31日に渓流の岩穴から複数のオスのメーティングコールや繰り返しメーティングコールを発して鳴嚢が弛んだオス成体を確認した.さらに抱卵しているメス成体も確認した.卵塊や孵化直後の幼生は未確認であったが,オスの繁殖行動や産卵前メスの可能性が高いと考えられる.その後同所的な秋季調査は2018年11月,2019年10月,2021年11月におこなわれたが,2018年と2019年に鳴嚢が弛んだオス成体,2019年と2021年に卵塊が確認されたことから,秋季産卵が繰り返されていることが示唆された.先行研究によると,調査地は島内の陸続きありながら,遺伝的に隔離され,体サイズが大型化する個体群であることが知られている.したがって,個体群独自の繁殖生態を持っている可能性がある.さらに調査地では多数の本種幼生も確認されたが,既知の産卵期である早春にも繁殖が確認され,産卵期が長期間にわたっている可能性もある.