| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J02-02 (Oral presentation)
雌雄の交尾器や精子など繁殖形質の多くは性選択が多様化に貢献したと考えられるが、産卵管のように種間相互作用によって多様化する例もある。産卵管の種間・種内変異は、他の生物に卵寄託する寄生蜂や淡水魚のタナゴ類で知られる。しかし、種間相互作用がもたらす産卵管長の種間・種内変異の双方を詳細に調べた研究は少ない。海産カジカ科魚類のアナハゼ類は産卵管を持ち、ホヤやカイメンなどに卵寄託する。これまでにアナハゼ類8種で宿主特異性と宿主種に応じた産卵管長の種間変異が認められているほか、同種内で産卵管長の地域変異が見つかっている。アナハゼ類は本州に広く分布するが、宿主となるホヤの分布は各地域で異なり、利用するホヤ種に応じて産卵管長に地域差がある可能性がある。そこで本研究では、国内6地点でアナハゼ類の産卵管長と宿主のホヤ種と大きさを調査した。その結果、ホヤの種組成は地域によって異なるにも関わらず、予想に反して、ホヤに卵寄託するアナハゼ類の大部分は、広域分布種のミハエルボヤとリッテルボヤの2種を共通して用いていた。産卵管長はアナハゼの太平洋側の伊豆個体群が日本海側の佐渡、福岡と瀬戸内の大阪よりも長く、使用するホヤも大きかった。アサヒアナハゼでは、日本海側の佐渡、三陸、積丹で比較したところ産卵管長に違いはなかった。さらに、アナハゼ類の主な宿主であるリッテルボヤとミハエルボヤの体サイズを地域間で比較した結果、伊豆の個体群が他地域よりも大型であった。以上より、アナハゼ類の産卵管長は太平洋側と日本海側・瀬戸内側で種内変異が確認され、その背景には、アナハゼ類の太平洋個体群と日本海個体群での遺伝的差異や、ホヤの体サイズの地域差があると考えられる。海産魚類では一般的に遺伝子流動が強く種内での変異は生じにくいが、分散能力が弱く、種間相互作用が強いなどの条件が揃うと繁殖形質の種内変異が生じることが初めて示された。