| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J02-03  (Oral presentation)

屋久島で産卵するアカウミガメは一妻多夫から利益を得ていない
Female loggerhead turtles do not benefit from polyandry at Yakushima Island, Japan

*畑瀬英男(近畿大学農学部)
*Hideo HATASE(Kindai Univ.)

【目的】ウミガメが産出する一腹卵塊内には複数の父親が存在すること、すなわち多父性が、分子的親子鑑定で世界各地から報告されている。この多父性がウミガメ雌にとって利益があるのかは論争になっている。いくつかの産卵地においては、一腹卵塊内の父親数が多いほど、受精率や孵化率が上昇するため、多父性の直接的・間接的利益が示唆されている。本現象の適応的意義について結論づけるにはもう少し事実を積み重ねる必要がある。本研究では、屋久島におけるアカウミガメの「繁殖性比」算出に用いた父親数のデータと、孵化調査のデータを併せて解析することで、多父性の本種雌にとっての利益を考察した。
【方法】2020と2021年に屋久島永田のいなか浜において、アカウミガメ産卵雌26頭とその子供291頭から試料を採取し、マイクロサテライト3座位の解析を行った。GERUDを用いて一腹卵塊内の父親数を推定した。また一腹卵数、受精率、孵化率、巣からの脱出成功率、および脱出幼体の体サイズ(直甲長、直甲幅、体重)を調べた。
【結果および考察】21頭が産んだ一腹卵塊内の父親数は1頭のみだったが、5頭が産んだ一腹卵塊内には2~4頭の父親が推定された。父親数と、一腹卵数、受精率、孵化率、脱出成功率、および幼体の体サイズの間に、有意な相関はなかった。単父性と多父性の一腹卵塊の間でこれらの特性を比較しても、有意差はなかった。多父性の一腹卵塊において、最大の貢献をした父親の子供と、2番目の貢献度の父親の子供の間で体サイズを比較したところ、体重のみ最大の貢献をした父親の子供の方が重かった。この2群間で自力脱出できた子供の割合に有意差はなかった。しかし多父性の一腹卵塊において最大の貢献をした父親の子供と、単父性の一腹卵塊の子供の間で体サイズを比較しても、有意差はなかった。これらの結果は、多父性は屋久島で産卵する本種雌には利益になっていないことを示唆した。


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