| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J02-12  (Oral presentation)

ツチガエルの捕食回避戦略:におい成分分析とミュラー型擬態の可能性
Predation Avoidance in the Frog Glandirana rugosa: Odor Analysis and Possible Müllerian Mimicry

*吉村友里(九州大学, QOU), 東房健一(九州大学), 福田拓人(九州大学), 清水邦義(九州大学)
*Yuri YOSHIMURA(Kyushu University, Kyushu Open University), Kenichi TOBO(Kyushu University), Takuto FUKUDA(Kyushu University), Kuniyoshi SHIMIZU(Kyushu University)

ツチガエル (Glandirana rugosa) は、捕まると青臭い特有のにおいを発するカエルであり、このにおいは体表から分泌される物質に由来する。本種の分泌物には捕食回避効果があり、カエルを好んで食べるシマヘビ (Elaphe quadrivirgata) に対し、口内に不快感を与えることで飲み込みを防ぐ。さらに、ヘビはこの不快感とにおいを関連付けて学習するため、学習後はにおいのみで本種への咬みつきを躊躇するようになる。つまり、ツチガエルのにおいは捕食者に対する警告シグナル(警告臭)として機能することが示唆されている。
  本種と同所的に生息するアカハライモリ (Cynops pyrrhogaster) もまた、捕まると特有のにおいを発する。アカハライモリは猛毒のテトロドトキシンを持ち、シマヘビなどの捕食者は本種を食べることができない。そこで、捕食回避効果を持つツチガエルと有毒なアカハライモリのにおいが、警告色に見られるミュラー型擬態の関係にある可能性を検証した。
  まず、両種のにおい成分を固相マイクロ抽出法(SPME法)で採取し、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)を用いて解析した。得られたマススペクトルデータをライブラリーと照合した結果、両種のにおいには共通する化合物が含まれていることが明らかとなった。なお、過去の大会(ESJ68)では共通成分は見つからなかったと報告していたが、分析手法とデータ解析法の改善により、本結果が得られた。
  これまでの研究により、ツチガエルのにおいが警告臭として機能すること、およびアカハライモリとのにおい成分の共通性が示された。現時点では、においを利用したミュラー型擬態の決定的証拠は得られていないが、実験室でふ化したシマヘビを用いた行動実験も進めている。本発表ではその一部を紹介しながら、においにおけるミュラー型擬態の可能性について総合的に議論する。


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